asagao



「涼と喧嘩したって聞いたけど」
「アイツ、圭ちゃんと遊びに行くっていうのを出て行く直前に言ったんだよ。俺だってリハあるって言えば“お母さんに預ける”って言って俺に何も言わずに出て行くつもりだったんだよ」
「だから喧嘩になったんや」
「普通は俺に言うだろ?それなのに“忙しいやろうから”って言いやがって。それならそうって言えばお義母さんに預けなくても俺が見たっつうのに」

リハあんのにどうやってみんの?と思ったけど、それは言うのをやめた。

涼は涼なりに高成くんのことを考えてる。
高成くんは涼のことを考えてる。
思いあう気持ちってこういうことなんやろうなって思わされるし、こういうのが幸せなんやろうなって思う。

こんな幸せを謙吾と紡ぐことが出来たらどんなに幸せなんやろうって考える。

「圭ちゃん遠恋だったっけ?」

ふと思い出したように高成くんが言うから頷いた。

「俺、会いにくると思う」
「ちょっと夫婦揃って何を根拠に言ってんの」

ここは夫婦揃って…何を根拠に言ってんのかわからんけど、自信満々に言ってのけるから面白い。

「根拠じゃない。そこにいるし」

は?と思って高成くんを見て指差す先を見ると、いてるはずがないのにこっちをじっと見てる謙吾がおった。
“まさか”と思って、でも間違いじゃなくて、謙吾やとわかると勢いよく立ったあたしの手を隣に座ってた高成くんが掴んだ。
え?と見下ろすと「黙って待ってろ」と、さっきの軽い口調じゃなく太く低い声であたしを座らせた。
その理由がわからず、でも言われた通りに座ると高成くんが言うたとおり謙吾はこちらに歩いてきた。

色んな意味でドキドキする心臓はどうしたらいいんかわからんくて複雑に動く。

あたしの隣には高成くん。
しかも嫁の涼は車の中。
誤解をしてるなら解きたいけど、それをしても信じてもらえる状況ではない。

あたふたするあたしをよそに高成くんは冷静に近付いてくる謙吾黙って見てる。
何が始まるんか全く想像できんくて、目の前に立つ謙吾を黙って見上げた。

「どうも」

一番最初に言葉を発したのは問題の発端である高成くん。
にっこりではなくニヤリと笑いながら言う所が意地悪心全開。

あたしは溜息吐きながらも今この瞬間に車から涼が出てくることを願ったけど、そううまくいかんのが人生らしい。

「どうも。で、誰?」
「友達の高成です、よろしく」

喧嘩腰で入る謙吾に対して冷静に対応する高成くん。
ハラハラするしかないあたしは事の成り行きを見守ることに徹底した。

「圭ちゃんの彼氏の謙吾だろ?知ってるよ、俺は」

その言葉に謙吾は眉を寄せた。

「遠恋なんだって?あんまり放置すると俺みたいな男に取られちゃうよ」

面白そうに言う高成くんと不機嫌マックスな状態の謙吾にハラハラしながら車から出てこん涼にあたしもイライラし始める。

「圭、こっちこい」

ピリピリした声色で謙吾がそう言うからチラリと高成くんを見ながら席を立った。

高成くんは面白そうにニヤニヤしながら顎で「行けよ」って言うから、足元に置いてた荷物を持ってゆっくり謙吾の元へ歩いた。
傍まで行くと謙吾は紙袋を持ってくれて、その空いた手を繋いでくれて高成くんをキッと睨んだ。

「言われなくてもお前に奪われるようなヘマはしない」
「それは結構。圭ちゃん可愛いけど、でも俺には可愛い嫁と息子がいるから手いっぱいなの」

そう言って一変して優しい顔を見せたTAKAの視線の先を見ると子供を抱えて車から降りてくる涼がいた。

あたし達の視線に気付いた涼はあたしと謙吾を数秒を見ると慌てたように駆け寄ってきた。
それを見てた高成くんが慌てて立って「走るな、バカ」と言いながら涼の傍へ向かった。
でもそれを気にしない涼は高成くんと並んで笑顔でこちらに歩いてきた。

「ほら~!!謙吾くん来たやん!」

やっぱあたしの勘は当たるんやって!
そう言うて笑うから、あたしも苦笑する。

ポカンとした謙吾の背中をポンポンと叩くと、「どういうこと?」と聞く謙吾に仕方なくあたしは説明した。
< 11 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop