asagao



高成くんの“子供作ればいいじゃん”発言から、まだ一言も発してない謙吾。
そうなるのも無理ないけど、変な汗かきながらドキドキしてるあたしの身にもなってほしい。

元々口数少ないのが謙吾やし高成くんの意地悪で機嫌が悪いなら謝りたい。
でも、この雰囲気はなんか違う。

高成くんはあたしらの踏み込んだらあかん場所に無断で踏み込み散々荒らして出て行った。
…後処理もせず。

「この後、予定は?」
「へ?!」

今まで黙ってた謙吾が急に喋るからびっくりして思わず変な声が出た。

怪訝そうにあたしを見た謙吾が黙ってあたしを見るから「いや、何も」と答えた。
そしたら「ご飯食べに行くか」と、いつものお店に向かうことになった。

「久しぶりに来た」

あたしらが付き合うようになってからよく来るようになったカジュアルダイニングのお店。
お酒を飲めるようになってからは遊ぶたびに食べにきてたからマスターにも常連扱いしてくれて特別メニューを出してくれたりしてくれる。

謙吾がここを離れてからは行かんくなって、あたしもご無沙汰やったから久々にこれて嬉しい。
メニューも変わっててなんか懐かしい感じもした。

「お、謙吾帰ってきたんか!久々やから特別メニュー出したるわ」

あたしと謙吾はマスターに挨拶をしていつもの席に案内してもらう。

いつもあたし達が座るのは一番奥の個室。
空いてたらいつもそこに案内してくれるから、特等席って勝手に呼んでた。

「マスター相変わらずやな」
「うん。あたしも久しぶりやから会えて嬉しい」

そうなんや?と言う謙吾にあたしは首を縦に振った。
謙吾がおらんのにこの店に来るのはなんか嫌で、あたしらがこうして二人ずっといられるんは、喧嘩してもいつもここで全て解決してきたから。

なにかあったらここで全て話してきた特別なお店。
そのお店に他の人と来るのはやっぱりなんか違う気がしてずっと来てへんかった。

マスターがドリンクと付きだしを持ってきてくれて、「お疲れ様」と乾杯をする。
それがいつものスタートの合図で今も変わらん。

あたしが一口飲んでグラスを置いてもまだ謙吾はビールを飲んでて、あたしが付きだしを一口食べてようやくジョッキを置くのもずっと変わらん。
なにも変わらんあたしらに嬉しくなる。

「なにニヤけてんの」

顔の緩みを謙吾に指摘されて今度は声を出して笑ってしまう。

目の前に謙吾が座ってて電話越しじゃない生身の声を聞けることが嬉しい。
手の届く距離に謙吾がいてることが嬉しすぎて、謙吾が帰ってきた実感が湧いて安心する。

「謙吾が近くにいて嬉しいから勝手に顔がニヤけんの」

正直なあたしが本音を話すと謙吾が固まって、それからちょっと顔を赤くする。
相変わらずで可愛い。
どんなけ離れてても謙吾が好きやなって心から思う。
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