asagao
はじまり
「コレ俺のために?ありがとー」
放課後、部活終了後、サッカー部の部室前、毎日入れ替わる女の子。
毎日女の子が違うはずやのに毎日同じ光景を見てる気がするのは多分あたしだけ。
高校入学して何か部活をしたかった。
でも特に惹かれるものがなくて、もう帰宅部でいいわと諦めてたとき、同じ中学の子がサッカー部のマネージャーにならんかと誘ってきた。
サッカーは男のスポーツやと思ってきたからルールも知らんし、マネージャーの仕事も経験がないから最初は断ってたけど、押しに負けてマネージャーをすることになった。
サッカーは冬がシーズンらしく、秋口から試合が増えて今は日曜も学校に来たりしてる。
二年目のあたしは一年生のマネージャーがよく動いてくれるからほとんど何もすることがなくて、補足役みたいな形で動いてる。
三年のマネージャーはおらんらしく、今のところはあたしが一番上。
先輩も同期も後輩も全て把握出来てる唯一のマネージャーということになる。
そんなもうすぐ2年になるマネージャー歴も男子の中に混ざるということがどういうことなんか、ぼちぼちわかってきた。
よく言う“サッカー部はチャラい”というのは偏見もあるんちゃうかと思ってたし、一概にそうやと言い切ることもないんちゃうかと思ってたけど、言葉通りの男も中にはおる。
それは“サッカー部はモテる”という説もあって、それも一概にそうやと言い切るものではないと思う。
基本的にサッカー部のマネージャーはそのどちらも当て嵌まらんらしい。
ただ、それには例外もあるらしく、一概にそうやと言い切るもんではない。
その例外は意外と翌年に現れるもんで、今の一年生マネージャーがその例外。
今通り過ぎようとしてるバカップルみたいな男女の女の子がそのマネージャー。
「うまそうやなぁ!帰ったら食べるわ」
ちょうど真後ろを通って視界に入らないよう静かに帰ろうとしてた。
してたのに、気付く奴は絶対に気付く。
「お、真やん。今から帰んの?」
「そう」
振り向きも止まることもせず答えながら通り過ぎる。
「ほな俺も帰る。んな和泉ちゃん、また明日なー」
グラウンドの砂利の音が聞こえて近付いてくるのがわかる。
「しーんちゃーん。俺を置いていくなやー」
隣に並ばれて一緒に帰らんとあかんハメになる。
この男もまた例外の一人でサッカーは出来る、モテる、チャラいの三拍子が揃ってる。
チャラいっていうのはこの場合あたしの偏見でしかないけど。
「和泉ほったらかしでええの?」
「なんで?別に一緒に帰る約束してないし」
そうやね、と思いながら何も言わずまだ並んで歩く。
このまま一緒に帰るの?と思わずにはいられない。