その男、カドクラ ケンイチ
ーーーーーー
5時間目が始まる頃。
2年生の学年主任 ムトウは、この時間授業がなかったので職員室にいた。
「カドクラ先生、私に何の用ですか?」
ムトウは目の前に立つ男、カドクラを睨んだ。
「ムトウ先生。ノノムラの携帯電話の件ですが。」
「私はこの前注意を与えた。
二回目は我慢ならない。」
「ノノムラの携帯を返してください。」
「君は私の話を聞いていたか?
二回目は許さん。」
「ノノムラは注意を受け授業中に携帯をいじる行為を反省しました。
だからかばんにしまっていたんですよ。」
「音が鳴って授業の邪魔をしたのなら変わりない。」
「たまたま電源を切り忘れていたなんて、どの生徒にもあることじゃないですか。
大事なのは今まで授業中に携帯をいじっていた生徒が、授業をちゃんと受けようとしていたことです。
立派な前進じゃないですか。」
カドクラは一歩も引き下がらない。
「君は私のやり方にケチをつける気か?」
「ムトウ先生にケチをつけてるんじゃないんです。
6組の生徒のけじめは担任の僕がつけます。
だから携帯を返してください。」
・・・・・・
授業中の為、職員室に人は少なかったが、しばらく沈黙が流れる。
「教頭に気に入られているか知らないが、あまり調子に乗るなよカドクラ先生。」
ムトウは引き出しから携帯電話を取り出しカドクラに差し出す。
「ありがとうございます。」
「学年主任の私は、いつでも君の立場を変えることができるのだからな。」
「それが学校の為ならば、いつでも従いますよ。」
カドクラは職員室を出た。