その男、カドクラ ケンイチ




「・・・相手はムラマツ先生か?」





カドクラが衝撃的な言葉を発した。


ノノムラは驚いた顔をする。



「お前の携帯についてるストラップ。
ムラマツ先生の携帯にも同じものがついてた。」


「…」


「偶然って思いたいんだけど・・ムラマツ先生か?」


「…」


「・・・」


「………そうです。」


ノノムラは認めた。

カドクラはフゥっと一息ついた。


「言える範囲だけでいい。
聞かせてくれないか?」



「………………………

…好きになったらダメだって分かってた。
だけど…ムラマツ先生が頭から離れなかった。」



ノノムラは言葉を絞り出すように話し始めた。

カドクラは黙って話を聞く。


成り行きでムラマツの家に行った事。

2人で何度か秘密のデートをした事。

ただ黙って聞いた。



「お前は思春期真っ只中の女の子だもん。
俺は悪いことだとは思わないよ。」


話し終わったノノムラにカドクラは優しく言葉を掛ける。


「先生…ごめんなさい。
……ごめんなさい。」


ノノムラは泣きじゃくり、嗚咽交じりにカドクラに謝った。


自分が勝手に敵視していた相手が、自分の為に携帯を取り返し、自分の恋を肯定してくれている。

ノノムラはカドクラに謝った。


「お前泣きすぎだよ。」


カドクラは笑う。

しかしすぐ真顔に戻る。


「ちょっと落ち着いて聞いてほしいことがあるんだ。
俺の言うことに耳を傾けてほしい。」


しばらく静寂が包み、ノノムラは落ち着きを取り戻す。





「ムラマツ先生には婚約者がいる。」



「……え…」


ノノムラは言葉を詰まらせた。


「その様子だと、ムラマツ先生は隠してたんだな?」


「ホントなんですか…それ?」


「ああ。本人から聞いたことあるし、先生達の間ではけっこうみんな知ってる。」


「………」


「病院でも言ったけど、俺は生徒の恋愛には口出ししない。

だから例え相手が教師だろうと“別れろ”なんて言わない。

でも一度ムラマツ先生と話し合え。
あとはお前の気持ち次第だよ。」



「……」

ノノムラの頬を再び涙がつたう。



「だけど忘れるな。
俺はいつでもお前の味方だ。」








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