その男、カドクラ ケンイチ
季節は7月になった。
日没の時間は遅くなり、3年生は徐々に部活を引退していく。
夏休みまであと何日か。
生徒にとっては待ち遠しい。
「あーぢー」
昼休み
カドクラとエンドーは昼飯を買いに売店に向かっていた。
「職員室出ると余計暑く感じますよね。」
「さっきこっそりクーラーの温度下げたった。」
エンドーはうちわを両手に持ち、二刀流で扇ぎながら歩いていた。
「なんか人多いな。」
二人の先に売店が見えたが、生徒の数がいつもより多く感じた。
「今日ってカスタードプリンの日でしたっけ?」
「いや、来週のはず。」
売店はちょっとした混雑をしている。
「おいおい、俺のお通りだぞ~。」
エンドーが割って入ろうとする。
「ぎゃっ。エンドー先生だ!」
女子生徒の集団が道を空ける。
「『ぎゃ』ってなんだ、『ぎゃ』って。」
エンドーはパンを物色し始める。
「せんせっ!」
カドクラに話しかけてきたのはオオシマだった。
「なんか今日人多いね。」
「自販機が故障しちゃったんですよ。」
オオシマはいちごミルクを飲んでいる。
「そうなの?」
「だからみんな飲み物買いに来てるの。」
「そういうことか。」
「お待たせ。」
アカイとノノムラが来た。
「あれだったら職員室からお茶持ってくるから、喉渇いたら言ってな。」
3人は教室に戻っていった。
「ノノムラもう大丈夫そうだな。」
エンドーがパンを買って戻ってくる。
「ええ。オオシマとアカイがついてるから大丈夫です。」
「はよお前も買ってこやあ。」
「あ、はい。」
「あ、ちょっといい?」
カドクラが買いに行った後、エンドーはそばにいた生徒に話しかけた。
「自販機が故障したって?」
「はい。タケダ先生とかが見てました。」
「でも自販機って2台あるよね?2台とも?」
「僕が行った時は両方共『故障中』って紙を貼ろうとしてました。」
「ふーん。どうもありがとう。」
「お待た・・あれ?」
カドクラがレジを済まし戻ってきた時に、エンドーの姿はなかった。