その男、カドクラ ケンイチ
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“暮らし始めたら 何かが変わるような気がした♪
君の古着のスカートをたくし上げたら♪
愛をー♪じれったいような愛を♪
渡しあった夜は薔薇色♪”
夜が更け、時刻は23時になろうとしている。
2年6組 タカハシ コウタは自宅マンションの屋上にいた。
“物語りは続くー♪2人の思い通りー♪
最後のページ 開かれないストーリー♪”
両耳につけたイヤホンからは、好きな音楽がリピートで流れている。
タカハシの頭の中を中学時代の嫌な記憶が巡る。
毎日がつらかった日々、誰にも相談できない悲しみ。
同時に自分が犯した罪の記憶が巡る。
真夜中に忍びこんだ校舎、血を流して倒れる教頭。
“ただ君を想い 幸せを願い♪
暮れゆく黄昏の中にいたー♪”
『何度だって人生はやり直せる。俺は喜んで手伝う。』
今日のカドクラの言葉が頭に響く。
“生きてる それだけがー♪代わりのいないストーリー♪
いつまでもー♪君の横顔を見ていたー♪”
ピッ
携帯をポケットから出し、音楽を止めた。
そのまま携帯を足元に置く。
「あんたと中学の時に出会えてたら良かったのにな。」
ポツリと呟きすぐ下を見下ろす。
眼下は真っ暗な闇が広がる。
「…」
タカハシは目を閉じる。
「もう無理だよ、先生。」
全身の力を抜き、タカハシは重力に身を預けた。
第23章 完