その男、カドクラ ケンイチ






















ーーーーーー



“暮らし始めたら 何かが変わるような気がした♪

君の古着のスカートをたくし上げたら♪

愛をー♪じれったいような愛を♪

渡しあった夜は薔薇色♪”







夜が更け、時刻は23時になろうとしている。


2年6組 タカハシ コウタは自宅マンションの屋上にいた。











“物語りは続くー♪2人の思い通りー♪

最後のページ 開かれないストーリー♪”








両耳につけたイヤホンからは、好きな音楽がリピートで流れている。




タカハシの頭の中を中学時代の嫌な記憶が巡る。
毎日がつらかった日々、誰にも相談できない悲しみ。


同時に自分が犯した罪の記憶が巡る。
真夜中に忍びこんだ校舎、血を流して倒れる教頭。










“ただ君を想い 幸せを願い♪
暮れゆく黄昏の中にいたー♪”











『何度だって人生はやり直せる。俺は喜んで手伝う。』

今日のカドクラの言葉が頭に響く。










“生きてる それだけがー♪代わりのいないストーリー♪
いつまでもー♪君の横顔を見ていたー♪”



ピッ



携帯をポケットから出し、音楽を止めた。



そのまま携帯を足元に置く。






「あんたと中学の時に出会えてたら良かったのにな。」



ポツリと呟きすぐ下を見下ろす。


眼下は真っ暗な闇が広がる。




「…」



タカハシは目を閉じる。




「もう無理だよ、先生。」





全身の力を抜き、タカハシは重力に身を預けた。













第23章 完

< 156 / 181 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop