その男、カドクラ ケンイチ







「ダメ!!!」

あっという間の出来事だった。



カドクラは背後から何者かに思いっきり抱きつかれ、そのまま後ろに引っ張られる。

両手と右足はフェンスから離れ、2,3歩後ずさりをした後、抱きしめられた手が離れた。










「・・モモイ先生・・・」


カドクラが後ろを振り返ると、視界の先には涙で顔をくしゃくしゃにしているモモイが立っていた。





「いま、なにしようとしてたんですか!!?」


嗚咽混じりにモモイはカドクラの胸を両拳で叩く。




「モモイ先生…僕のせいで…タカハシが…
もう…頭の中がぐしゃぐしゃなんですよ…」







モモイは溢れ出る涙をぬぐい、自分の背よりも高いその目を見つめる。



「本当にカドクラ先生のせいなんですか!?」


「え…?」


「誰かが“カドクラ先生のせいだ”って言ったんですか?」


「いや…」


「自分で勝手に決めつけて、責任感じて飛び降りようとしてたんだったら、それはただの自己満足ですよ!」


「…」


「生きて、生きてやるべき事はもうないんですか!?」


「生きて…やるべき事…」





「あなたの大事な生徒、あなたを“心の支え”にしている生徒はどうなるんですか…」



「…」




時折声が裏返りながらも、モモイは必死に自分の想いをぶつける。

頬には再び涙が溢れるが、そのままカドクラの胸にその身を預け、

先ほどフェンスから引き離した時と同じように、両腕でギュッとカドクラの体を抱きしめる。










(オオシマ…ダテ…アカイ…ノノムラ…

2年6組の生徒達
2年生の生徒達


…堂々秀高校の生徒達)






カドクラの目からも自然と涙が出た。



「タカハシ・・・」








誰の言葉も届かなかったカドクラの心に、光が射す。


涙を拭ったその目は、もう虚ろではなかった。












第24章 完

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