その男、カドクラ ケンイチ
エンドーと別れたカドクラはカラオケBOXへと向かう。
街灯が少ない道もあるので片手には懐中電灯を持っていた。
歩きながら暇潰しに、
『自分のクラスの生徒を出席番号順にフルネームで間違わずに言えるか』ゲームを一人で始める。
「え~っとタカハシの次は…
え~っと…
え~…」
(やっぱりやめた。)
諦めの早さもカドクラの長所であった。
(あのドラッグストアを曲がれば、車の交通量も多い大通りに出てカラオケBOXが見えてくる。)
カドクラは懐中電灯のスイッチを切る。
と同時に人影がドラッグストアの方からこっちに曲がってくるのが見えた。
暗く少し遠いので顔までは見えなかったが、
シルエットで何となく女性であることは分かった。
(不審者と間違われないようにあまりじろじろ見ないようにしよう。)
カドクラは顔を少し伏せた。
次第にお互いの距離が縮まりもうすぐすれ違うぐらいまでになった時、
月明かりが見覚えのある茶色がかった髪を照らした。
ほぼ同じタイミングでカドクラと女性が声を出す。
「カドクラ先生…?」
「オ…オオシマ!?」
女性は2年6組の生徒 オオシマだった。
「お前…」
カドクラが言いかけると、
オオシマは少し身構える。
「良いところに来た!」
「………はぁ?」
予想だにしないカドクラの言葉だった。
「あのさ、タカハシの後ろって誰が座ってたっけ?
あのちょっと筋肉質な子。名前!」
「ゆーへいのこと?」
「それだ!ゆーへいゆーへい。名字ってダテだったよな。」
「そうだけど。」
「あ~すっきりした。」
「意味分からん。」
オオシマは再び歩き出す。
カドクラもカラオケBOXへと再び…
「じゃない!オオシマちょっと待った。」
ようやくカドクラは我に帰る。
「お前こんな時間にどうした?」
「先生には関係ないじゃないですか。」
「関係ないことはない。
どっかから帰宅中か?」
「ホントに見回りしてるんですね。
バッカみたい。」
「バカって。まぁいいや。家まで送ってくよ。」
「いいです。」
「こっちの方は人通りも少ないし危ないよ。」
「家になんか帰りたくない!」
「え~~。」
“何がしたいのお前?”
と言いそうになったがカドクラは堪える。
「彼氏の家にいて、ちょっと喧嘩したから外出てただけです。」
「じゃあそろそろ戻ろう。
タケダ先生には黙っておくから。」
「・・・」
「親御さんにも言わないって。
ほら。どこなの彼氏の家は。」
オオシマは来たほうへと引き返しカドクラがついていく。