その男、カドクラ ケンイチ
「じゃあ始めようか。」
カドクラは教室で待機していた男子生徒と面談を始める。
生徒の名はタカハシ。
前髪は目にかかりそうで襟足も長い。
しかし見た目とは裏腹に割とおとなしめ。
カドクラはそんな印象を持っていた。
「どう6組は?」
カドクラは昨日もこの質問から始めている。
「昨年と顔ぶれがあまり変わっていないのでなんとも。」
「そうか。タカハシ君は旧1-6の生徒か。」
「ナガノ先生はいつ復帰する予定ですか?」
「ええっと…1年後くらいかな。」
「そうですか。」
タカハシが一瞬笑みを浮かべたような気がしたが、カドクラは気にせずプリントを見ながら面談を進める。
(よく喋る。)
カドクラはタカハシに対してこのような印象を持った。
それは面談をする前の印象とは真逆である。
このような発見を見つけるのも面談を行う理由の一つであった。
「じゃあ最後になんか聞きたいことある?」
進路の話まで一通り話してカドクラは最後の質問をした。
「先生って、いじめられたことありますか?」
「お前まさか誰かからいじめられてるのか?」
いきなりぶっ飛んだ質問がきたのでカドクラは慌ててタカハシに尋ねる。
「いえ。ないですよ。
ただ聞いただけです。」
「それならいいけど。
おれは今までそういうのを受けたことはないよ。」
「そうですか。」
またタカハシが一瞬笑みを浮かべたような気がしたが面談は終わる。