その男、カドクラ ケンイチ
ーーー数時間前
喫茶店に入ったカドクラとエンドーはコーヒーを注文する。
「お前、オオシマの彼氏に会おうとしとるやろ?」
エンドーは砂糖をこれでもかというぐらい入れる。
「はい。日常的に暴力をふるわれているかもしれません。」
「多分煙草の犯人は母親だと思うよ。」
「・・・・・はぁ!?」
いきなりとんでもないことをエンドーが言い出した。
「な、なにを言ってるんですか!」
「あのお母さん喫煙者やよ。」
「なんで分かるんですか?」
「台所に灰皿があった。吸い殻は見えなかったけど灰は残ってた。
多分俺達が来たから慌てて処分したんだろうな。」
「お土産渡した時にそんなとこ見てたんですか。」
「ひょっとして父親が吸ってるのかもって思ったけど、単身赴任で家にいないって言ってたし。
こいつ吸ってるなって一度思ったらよ、
歯は黄ばんで見えるし、左手から微かに煙草の匂いがにおってくるし。」
「でも仮に喫煙者だったとしても、オオシマの腕に押し付けたとは限らないんじゃ・・。」
「そこでお前の出番だよ。
オオシマの腕の痕をちゃんと見たのはカドクラだけだ。
俺がつけたお前の腕の痕と比べてオオシマの痕はどうだった?」
「ほとんど変わりませんでしたよ。」
「大きさもか?オオシマの痕の方が小さくなかったか?」
カドクラは自分の記憶を辿る。
「そう言われてみればオオシマの痕のほうが小さかったような・・。」
「一概には言えんけどよ、女性が好んで吸う煙草って普通の銘柄より細いものが多いんだよ。」
「ちょっと待ってください。もし本当にそうなら…」
「夜になったらもう1回行くか。一か八かな。」
エンドーはトーストを注文する。
ーーーー
目の前に涙を流したオオシマがいる。
その頬は赤くなっている。
まるで誰かに叩かれたように。
視線の先には煙草を片手に母親が立っている。
エンドーの推測が確信に変わり、
カドクラの怒りは沸点に達した。