キッチン・シェア〜びっくりするほど気づいてくれない!〜
寒川は最初、言葉の意味がわからなかった。

別人のことではないかと思った。聞き間違いだろうか?

「ごめん、もう一回言って」

「百合原が、寿退社だよ。やっぱ知らなかったんだ?相手は××商事のエリートで___」

確かに知らなかったが。

「まあ、気にすんなよ。てか逆にまだ付き合ってたの?」

寒川は答えなかった。

ショックよりも自分に対しての情けなさが大きかった。

いつから浮気されていたのだろうか。結婚にまで至るなんて、短くはない付き合いだろう。それなのに全く気がつかなかった。

……はぁ、アホみたいだな。

柳本が、「どんまい」と言いながら寒川の机の上に缶コーヒーを置いて去って行ったのにも気付かなかった。
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