キッチン・シェア〜びっくりするほど気づいてくれない!〜
さおりはびっくりしたが、すぐに顔を輝かせ、興奮した声でまくしたてた。

「うわあ、寒川くん! すごい、こんな偶然ってあるんだ! 小説かなんかみたいだね! ていうか、最近は引越しの挨拶ってしない人も多いっていうのに、偉いね! その手に持ってるのは洗剤? あ、部屋散らかってるから向こうは見ないでね!! ちょっと閉めてくる」

さおりはそう言って1DKの短い廊下を走り、部屋のドアを閉めた。

「いや、あの……」

寒川はさおりに圧倒され、挨拶に持ってきた洗剤を片手に固まる。

「はー、ごめんごめん。あ、そんなところだと蚊に刺されるか! どうぞ、狭いですがこちらにでも。座布団あったかな……」

「いや、いいっす、ここで!」

「あら、そう?」

「ハイ。いやでもびっくりしました。まさか隣が楠木さんとか」

「ね!運命を感じるね!」

寒川は運命、という単語に吹き出した。

「はは。楠木さんやっぱ面白いっすね」
< 3 / 22 >

この作品をシェア

pagetop