サイレント・タロット
「澤村っていただろ? 大学卒業して芸大に入ったやつ。あいつにコンサートに一緒に出ないかって誘われてさ……出たいんだけど、今、仕事すげー忙しくて自信ないんだよなぁ」
私は頷きながら、彼の目を見て彼の話を聞いている。
「どんなコンサートなの?」
「まあ、小さいやつ。駅の近くの文化ホールあるじゃん? あそこで。澤村がテノール、あとはオレがチェロで、澤村の知り合いのヴァイオリニストとピアニスト、あとソプラノ歌手」
「なかなか、ごちゃまぜで面白そうじゃない。今もまだ毎日チェロの練習はしてるの?」
「ああ」
私は胸がきゅっと狭くなるような感覚を覚えた。
大学の、初心者もたくさんいる楽団の中ではずば抜けていた彼。真剣な横顔、これが好きだったものだ。
「……で、私はあなたの背中を押せば、いいのよね?」
ふっと力を抜いて問いかける。悩んでいる人には穏やかな顔で話しかけることにしている。彼は私の顔を見て一瞬固まった。
そして、くしゃっと笑って「ずるいよ」と言い残して、軽やかな足取りで出て行った。
私は頷きながら、彼の目を見て彼の話を聞いている。
「どんなコンサートなの?」
「まあ、小さいやつ。駅の近くの文化ホールあるじゃん? あそこで。澤村がテノール、あとはオレがチェロで、澤村の知り合いのヴァイオリニストとピアニスト、あとソプラノ歌手」
「なかなか、ごちゃまぜで面白そうじゃない。今もまだ毎日チェロの練習はしてるの?」
「ああ」
私は胸がきゅっと狭くなるような感覚を覚えた。
大学の、初心者もたくさんいる楽団の中ではずば抜けていた彼。真剣な横顔、これが好きだったものだ。
「……で、私はあなたの背中を押せば、いいのよね?」
ふっと力を抜いて問いかける。悩んでいる人には穏やかな顔で話しかけることにしている。彼は私の顔を見て一瞬固まった。
そして、くしゃっと笑って「ずるいよ」と言い残して、軽やかな足取りで出て行った。