【完】【短編集】先生、"好き"を消せません…
「センセーこんにちは」
「どうも」
翌日の放課後も保健室に向かう。
「昨日のさ、男の子。いつも内海たちと帰ってるの?」
「鈴木?
うん、そうだけど…」
ふと、昨日のことを思い出す。
センセーに腕を掴まれて…また明日ねって。
どうしてもそのセンセーの手に意識がいってしまう。
すらっとした長い指に、手入れの行き届いた爪。
それでいて骨ばった、ちゃんと男らしい手。
私のその視線に気付いたからかなんなのか。
ふふ、とセンセーが笑い出す。
「あの後、何か聞いた?」
「それが…ずっと黙ってて、機嫌悪い…みたいな感じだったの」
そっかーと、またも笑う。
「昨日ね、あの子に言われたんだよ。
あんたは教諭で梨奈は生徒、それを忘れんなよ。
ってね」
「す、鈴木がそんなこと…?!」
「はぁー…
それだけ好きなんだろうな」
そしてセンセーは続ける。
「…内海のこと」
いやいやいや、それはない!
鈴木に限ってそれはない!
「俺も大人気ないからさ。
あと1年ちょっともしたらその関係も終わるな?卒業式が楽しみだよ。
って言ったの。それで機嫌悪くなっちゃったんだな」
「なっ…何でそんなこと…」
「何でって…意地悪したくなっちゃった、から?」
意地悪って…
新しいセンセーを見たみたいで、そこにも胸がきゅんとする。
でもセンセーはきっと、私のことなんて生徒の1人にしか思ってなくて。
私が卒業してしまえば忘れてしまう存在で。
センセーの発言はただの冗談で、これっぽっちも本気なんて含まない…
そう思うのに。
どうしても惹かれてしまう私にとってセンセーの存在自体が意地悪なんだ。