日々カオス 〜私に起こるのはこんなことばかり 〜
2015年、横浜。
南アジアの旅を終えて日本に戻ってきてから、横浜の実家で私だけで住むことになった。立派な吹き抜けと公園の見える閑静な場所であるが、少なくともここは私の故郷だ。

父は、マレーシアに移住する準備に取り掛かり、会社を辞め、現地での会社設立の準備を始めた。彼氏と一緒にマレーシアと日本を行ったり来たりしている。現地での生活を相当楽しんでいるようだ。父のFacebookを見ていると、なんか羨ましくなる。今まで、父の働いている姿の写真や一緒に仲間と飲んでいる写真なんて見た事なかった。

実家の3LDKのアパートにある自分の部屋を使って、個人事業の事務所として開業することにした。

父が私の大学進学ように貯めておいてくれた資金を使って準備を整え、4ヶ国語を駆使した翻訳・通訳の仕事の受注を始めた。旅で培った重要な能力だ。アウトソーシングのサイトを使って仕事を受注し始めていたら、だんだん評価のスターの数と仕事をこなした数が増えてきて、定期的に大企業からの仕事が取れるようになっていった。


ある日、いつものように自宅のオフィスで仕事をしていた時の事だ。夜更かしをするのが習慣になってしまいすでに深夜1時30分を回っていた。
携帯のアプリの音に気づいて、画面をチェックしてみるとアプリに珍しい人からの音声メッセージが入ってる。この人は、私がインドでお世話になった人の長きにわたる友人らしき人だ。
メッセージの再生ボタンを押してしてみると、日本語だが日本語のイントネーションではないペラペラの日本語が聞こえてきた。返事を録音して送信ボタンを押した。

そうして、バングラデシュ人のモーシン、別名『海賊』との出会いが突然現れた。今思えば、彼は気楽に遊べて恋人 (愛人)として長続きするかもしれない女を召喚したに過ぎなかったのあろう。彼は日本に20年は住んでいるという。

実際会ってみてから、各方向から刺激が走り急激な行動が増えた。

庶民的な地域にある閑静なアパートの駐車場に、ぞろ目の高級車が頻繁に止まるという珍しい状況が起きてきた。

初めて過ごした夜から、『私たち』の身体の体積が増えたり減ったりするのを無理なく楽しめてしまう状況に一時的に冷める時、『海賊』は言った。
「こんなに俺のこと好きなんだ?」
…他人のこと言える状況ではないよね。私は笑った。


モーシンはいわゆる『サイコパス』だった。だが、この時は全くそれを理解できていなかった。


衝動的に会ってしまう日々が数ヶ月も続いていたので、私は、結婚の話を持ち込んだ。
そして、彼は言った。「展開が早すぎる」と。

私は、真剣に結婚する気がない人と付き合うつもりがない。『オンかオフかがはっきりしていることが重要』というのが、我が家の習わしだ。
父は「複雑なことが起きている場合、明確な契約書のない状況ではとんでもないことになる」といつも言っていた。それは我が家の教訓だ。泥沼が始まってはいけない。

モーシンは言う。「僕の現実は複雑だ。間違った人と結婚してしまって、子供も何人もいる。銀行へ返済しないといけない資金も億単位である。今の状況に満足してない。人生、間違えて進んでしまって後悔している。新しい人生を始めたい。」そして、彼のFacebookにはニコニコして映っている家族の写真が山ほど載っている。

彼は言った。「僕は、再来週から1ヶ月半海外出張するよ。オーストラリア。一緒に行こうよ。結婚したみたいにして一緒に生活しようよ。」
プロフェッショナルなら、この複雑な関係のためにははっきりした契約を作って欲しい。もしくは、早く今の家庭環境に決着を付けて欲しい。それをはっきりさせるためにも、1ヶ月間、オーストラリアに行って一緒に暮らしてみることにした。

そうして、この男と時間を過ごしたいだけの理由のために、海外に出かけた。
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