ドラゴンの血を引く騎士は静かに暮らしたい

宰相ゲイル・マクレガー

即位されてからオルラント陛下の様子が変わった。


とても好戦的にかつ、短気になられた。

元から熱いタイプであったが。
ここまででは無かった。

野心家でもなかったし、そもそも皇帝という椅子にあまり興味を示していなかったのだ。


しかし、先王陛下が崩御されて即位されるまでの短期間でまるで人が変わったかのように他国への侵略指示を出し始めた。


訝しみ、窘める重臣達を尽く退けていき支持者のみで固めて一気に領土拡大に動き出した。
こちら側だけで済めば問題無いと思って、私も支持して進めてきたが……。


「シルベスターはそう簡単ではない。むしろこちらの方が部が悪い。勝てるものでは無いところに無駄な犠牲を強いるのか・・・」


思わず宰相執務室で独り零すと


「はは、宰相閣下は国民思いだなぁ」


いきなりの声に警戒して瞬時に投げつけた短刀はあっさり空中で止まる。


「この執務室に侵入するなど、愚かな。引き裂いてくれる」

そうして細剣の柄に手を伸ばすと、一気に動く気配。


「遅いよ」


「グッ、カッ、ゴホゴホ」


鳩尾に構える暇もなく衝撃を受ける。


見えない相手とはいえ気配はあった。
故に切れると思ったが、相手は手練らしい。
スピードが段違いだった。


「して、愚かな侵入者は何を望んでいる?」


「世界の混沌。そして闇の再来」



「悪魔の使者か!」



その言葉で浮かぶは二千年前に滅びた文明の微かな記録。


「これで分かるとは宰相は博識だね?」


クスクス、と笑う声が告げてくる。
実に楽しそうな遊んでるような子どもの弾む声。


内容に合わない声色が、実にかけ離れている所にこれの真実を垣間見る。


「して、ここに来た理由は聞けるのか?」


「知る必要は無いよ。もう君、終わりだから」


こうして、使者はゲイルと入れ替わり最前線へと赴く事にした。


「だってお楽しみは楽しまなきゃね♪」


才智に富み冷静沈着と謳われた宰相ゲイルはこうして人知れず散った。
人ならざる者に、勝てるほどの力は彼には無かったから……。
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