黎明皇の懐剣
ハオは目を見開く。それはつまり、ユンジェをハオに託す、という意味になる。しかしながら、今まで王子はハオと二人乗りをしていた。馬は四頭しかいない。まさか。
「カグム。どうせ、私は一人乗りをさせてもらえないんだろう? だったら私は、貴様の馬に乗る。指揮をする人間と一緒の方が都合も良い」
「ピンインさまの御指名ですか、光栄ですね。構いませんよ。貴方様さえ良ければ」
やっぱりそうだ。ハオは心中でため息をついた。
(おいおい、大丈夫かよ。その組み合わせ……道を引き返すより、不安なんだけど。頼むから馬の上で殺し合い、とかやめてくれよ)
周囲の戸惑いなんぞ二人はお構いなしだ。
含み笑いを浮かべるカグムに冷たく笑い、「せいぜい油断せんようにな」と、忠告をしてティエンはユンジェの枕元で両膝を折った。
「ユンジェ。そろそろ出発する。頑張れるか?」
頬を紅潮させる子どもは重たい瞼を持ち上げ、小さく頷くと、ティエンに助言した。
「ティエン……相手はよく考える奴なんだろ? なら……めいっぱい、考えさせるんだ」
ユンジェは高熱に魘されながらも、話をしかと聞いていたらしい。意外にティエンと相性の良い相手かもしれない、と子どもは力なく笑う。
「おれに、よく言うじゃん。お前は考えることが得意だけど、ちょっと『すぎる』ところがあるって。おれ、考えすぎると、わけ分かんなくなるからさ……うまく言えないけど」
考えすぎる。
ティエンは顎に指を当てた。ユンジェもそうだが、よく考える奴は周囲を隈なく観察している。そこから様々な可能性を見出し、相手の意表を突いたり、出し抜いたり、撒いたりする。ユンジェはそれを、とても得意としている。
だがドツボに嵌ると、深読みをしたり、混乱したり、冷静な判断ができなくる。もし、相手が似た型であるならば。
と、ティエンの顔を見つめていたユンジェが、嬉しそうに頬を緩めた。
「いまのティエン、すごく格好良いな……すごく頼れる……おれ、甘えてもいいかな。お前に、守ってもらっていいかな」
勿論だ。今回は懐剣の出番など、一切出させない。ユンジェはただ、馬に乗っておくだけで良い。
「後はすべて、私に任せておくれ。ユンジェは安心して寝ておきなさい」
ティエンは子どもの頭を撫でると、行動に起こした。まずは、消えかけているたき火に枝を足さなければ。