黎明皇の懐剣

 次会ったら、みじん切りにしてやると双剣を抜いていた。怒りはすさまじかった。下手に刺激すれば、ユンジェの方が斬られてしまうやもしれない。

 トリを飾るカグムに至っては満面の笑みであった。

「俺か? いやぁ、別に思うことはないな。如いて言えば、そうだな。あれを三度討っても足りないということくらい。ははっ、なんてことないだろう?」

 誰よりも恨んでいるではないか。
 一体全体、カグムに何が遭ったのだろう。ユンジェは笑顔を崩さない彼に怯えてしまった。

 とにもかくにも、グンヘイは評判の悪い将軍らしい。亡き父の権力を振りかざし、好き勝手しているようである。

 そんなにも評判が悪いのであれば、将軍の座を引きずり下ろすこともできそうなもの。

 自分は剣も持たず、戦も出ないだなんて、無能にも程がある。
 ユンジェが意見すると、それができたら、さっさと細切れにしているとハオが返事した。グンヘイは曲者のようだ。

 そんな男が青州に何故いるのだろう。疑問を抱くと、カグムが答えてくれた。

「おおかた、左遷(させん)されたんだろう。元々は王都の守護を任されていたが、あまりの評判に外されたんだろうなぁ」

 左遷とは、低い地位に降ろされることを指すらしい。

 だったら、いっそのこと将軍の肩書きを取り上げれば良かったのに。ユンジェは不思議に思ってならない。

 話によるとグンヘイの一族は、たいへん王族に貢献しているのだとか。
 父親が素晴らしい将軍だったからこそ、その肩書きは取り上げず、王都から青州に守護を任せたのだろう。

 ちなみにグンヘイは口が達者らしく、人を見る目にも長けている。ゆえに第二王子セイウには表向き忠誠を誓っているだろう、とのこと。

 要は強い者にごまをすり、弱い者はとことん見下す男なのだ。聞けば聞くほど、胸糞悪い人物である。

 大人達は口を揃えた。グンヘイには関わらないよう、要注意しよう。あれに関わったところで、ろくな目に遭わないのだから。

 けれど、もしもあれが単独で行動していたら、それを見掛けたら闇討ちにしよう。そうしよう。

 驚くほど満場一致で決まる方針にユンジェは何も言えなかった。かつて、ここまで大人達が心を一つにさせたことがあっただろうか。

(……うん、もう三人の好きにさせよう。俺が口を挟むことじゃないや)

 ユンジェは心の底から思った。
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