黎明皇の懐剣
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将軍タオシュンが放った炎は三日三晩、森を、町を、集落を焼き続けた。
消息を絶っていた将軍の亡骸は燻る森の中で見つかり、彼が率いていた兵達は一時撤退を余儀なくされる。七日後のことであった。
カグムとハオは同志と共に、呪われた王子と懐剣の行方を探した。
亡骸が見つかれば、森の中にいたと証明されるが、大人らしき亡骸も、子どもらしき亡骸も見当たらなかった。
手掛かりが見つからず残念に思うが、反面安堵もした。彼らに死なれては困るのだから。
森をさまよっていると、小さな家を見つける。焼け崩れてはいるが、確かにそこは家であった。
カグムは焼け跡から小壷や鍬、半分ほど焼けた蓑など、生活感に溢れた物を見つける。小壷を開けてみると、芋が塩水に浸かっていた。保存食だったのだろう。
家の側らにある畑も燃え尽きていた。
しかし、土を探ってみると、大小の青い芋がたくさん出てくる。ひと月後には収穫だったに違いない。
ふたたび森に足を運ぶと、奥地に小さな墓を見つけた。誰の墓なのかは分からない。石が建てられただけの、粗末な墓であった。
カグムは墓の前で膝をつき、供え物に手を伸ばす。
「こんなところに銭一枚と、塩漬けの野菜」
一枚の銭。そして葉の器に盛られた、少しの塩漬け野菜を見下ろし、カグムは深い息をついた。
それは大きな安堵に包まれたものであった。
「宣言通り、この土地から炎が消えるまで見届けていたってわけか。ったく……やっと見つけたのに振り出しなんてな。俺達から逃げられると思うなよ」
悪態を吐き捨てる、彼の口端がつり上がる。生きているなら、なんだって良かった。
「ハオ。馬を出すぞ。王子と懐剣のガキはもう、この土地にはいないようだ。今度見つけたら、首に縄を括ってホウレイさまの下へ連れて行くぞ」
同じ空の下。
焼けた故郷と別れ、あてもない旅に出る二人組がいた。
ひとりは、天女のように美しい顔を持つ男。
そして、もうひとりは小柄な体躯を持つ農民の少年。彼の帯には立派な懐剣が差さっていた。その身分には不似合いの、黄玉の装飾が、帯の中でいつまでも輝いていた。
(第一幕:懐剣と少年/了)