黎明皇の懐剣


「側妃って?」

「王は複数の妻を取り、子孫を残す習わしがある。その際、本妻と側妻に分けられ、母は後者に当たる人だったんだ。本妻を王妃、側妻を側妃と呼んでいる」

 ティエンの母は呪いの子を産んだことに心を痛め、日を増すごとに病んだ。顔を合わせたところで、そこに愛情などなく、向けられるのは憎しみばかり。

 最後に会ったのは十の時だそうだ。
 以降、どこで何をしているのか、皆目見当もつかない。それこそ、生きているかどうかすら分からない、とティエンは語った。

「お前の両親っておっかない人ばっかなんだな」

「おっかないのは、身内全員に言えることだ。私には腹違いの兄弟がいる。兄が二人、姉が一人、妹が四人」

 ユンジェは指を折って計算をする。全部で七人兄弟なんだな、と答えると、八人だと訂正された。

「ちゃんと、三回指で数えたぞ。八人なわけないだろ?」

「ユンジェ。その計算、私を入れていないだろう?」

「……あ」
 
 とにかく兄弟が多いことは分かった。

「その中で、正式な王位継承権を持つのは王妃の子リャンテ。次に王位継承権を持つのは、第一側妃の子セイウ。順当にいけば、私はその次に王位継承権を持つ王子だった」

 けれども、ティエンは呪われた王子。クンル王の怒りに触れた子どもが、王位継承権を持てるはずもない。それについて、兄達からよく侮蔑されたものだ。

 ティエンは昔を思い出し、苦い顔を作る。

「リャンテ兄上は父に似て、感情の起伏が激しく好戦的な方だ。気に入らないことがあると、相手が老人であろうと、女子どもであろうと、首を刎ねる。それを眺めながら、飲茶を取るのが楽しみとなっていた」

 悪趣味だ。ユンジェは身震いをしてしまう。

「セイウ兄上は母に溺愛されているせいか、ずいぶんと贅沢な生活を送っている。どのような我儘でも通る環境にいるために、とても性格がひねくれている。歪んだ贅沢をしているそうだ」

「歪んだ贅沢?」

「ユンジェで例えると、そうだな。国中の桃饅頭を買い占め、それで家を建てるような贅沢だ」

「はっ? 食い物で家を建てるのかよ!」

 罰当たりも良いところだ。ユンジェには、到底理解できない話である。

「ひねくれている上に狡い。贅沢を止めようものなら母に告げ口をし、兵を動かす。それで戦になったこともあったそうだ」

「そんな奴等が、次の王って……お前の呪いの方がよっぽど可愛いと思えるぞ」

 まともじゃない。それが正直な感想だ。


「他の兄弟には会ったことないの?」

「姉はあるが、妹達には会ったことがないよ。姉に会ったことがある、と言っても、遠巻きに姿を見掛けた程度だ。彼女等は私を避けた。呪いを受けたくなかったんだろう。もし、呪いを受ければ、父の怒りが待っているからな」

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