目が覚めたら御曹司
目が覚めたら腕の中でした
目が覚めて、目の前に腕があったら、自分のだって思うじゃない?
そりゃ、一緒に暮らしてるラブラブな彼氏がいて、毎日おんなじベッドで眠るっていうリア充爆発しろ系の女子ならそうじゃないかもしれないけど。
生憎わたしは彼氏いない歴三年の、二十八歳、枯れかけちゃってる系女子なわけですよ!
寝ぼけまなこで、自分のベッドの上にある腕を見て、自分以外の誰かのものだなんて発想が、そもそもありえないじゃないですか。
だから、あーもう少し眠っていたい、って、なんとなくその腕に顔をすり寄せちゃったのよ。
その瞬間、息を呑んだ。
「……っ!?」
わたしが触れた途端、その腕がわたしの意志とは関係なくグイッて動いて、わたしを掻き抱くように引き寄せたから、仰天して覚醒した。
(なに!? どういうこと!?)
首と腰に腕をガッチリと回され、拘束されている。
よく見れば、その腕は自分の腕よりもずっと筋張って逞しい。
背後に大きくて温かい身体と、ゆったりとした呼吸音。
(え!? だ、抱き締められてる!? 男、の人、だよね!? だ、誰!?)
しかも、背中に感じるのは、明らかに直の人の素肌。
感触からいけば、これ、上半身だけじゃなくて、下も絶対全部脱いでるよね!?
ゴクリと唾を飲んで、そろりと手を動かして確認すれば、わたしも丸裸。
(ちょっとぉおおお!? わたし、なにやらかしちゃったの!?)
わたし(達?)が寝ているのは、わたしのじゃない、明らかにスプリングの良いベッド。
同じベッドに眠る男女が抱き合っていて、しかも互いに一糸纏わぬ姿となれば、それはもうイコールと同義だ。
つまり、英語で言う『one night stand』……一夜限りの関係というやつだ。
(ああ、どうしよう……!)
頭が混乱する。
一夜限りの関係だなんて――不器用で、頑固だとさえ言われてしまうようなわたしに、そんな真似できっこないはずなのに。
なんだってこんなことに。
ややもすれば、グルグルととりとめなく疑問だけが巡りそうな脳ミソを叱咤して、わたしは懸命に記憶を辿った。
昨日……昨夜はどうしてたんだっけ?
確か昨日は金曜日で、半年に一回集まってる、同期の飲み会があって、出席したんだ。
そこそこ大きいウチの会社は、いわゆる中堅企業と呼ばれる所で、部署は異なっても、同期の数はそれなりにいる。そして年月を経ていく内に疎遠になりがちなその関係は、わたし達の代ではちょっと違っていた。
世話焼きというか、カリスマ性があるというか、皆を纏め上げる中心となる人物がいたために、なんやかやと半年に一度のぺースで同期会が行われているため、非常に仲がいいのだ。
わたしもその飲み会を毎回楽しみにしていた。
しかも今回、一つの大きなプロジェクトを終えた後だったので、自分への慰労を含めて、お酒が呑めるのを楽しみにしていたのだ。
(それだけじゃないくせに……)
ふ、と自嘲気味にノリツッコミを入れてしまう。
そう。それはむしろ、口実というか。
本当は――と思いかけて、ふわりと鼻腔をくすぐったシトラスノートに、身体が硬直する。
わたしは、ガン、と後頭部を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
(……嘘……!)
嘘だ。お願いだから嘘だって言って。
喉元に恐怖にも似た哀しみが押し寄せてきた。
だって、このシトラスノートは……、沢渡の、沢渡亮(さわたり たすく)の、香水の匂いだったから。
そりゃ、一緒に暮らしてるラブラブな彼氏がいて、毎日おんなじベッドで眠るっていうリア充爆発しろ系の女子ならそうじゃないかもしれないけど。
生憎わたしは彼氏いない歴三年の、二十八歳、枯れかけちゃってる系女子なわけですよ!
寝ぼけまなこで、自分のベッドの上にある腕を見て、自分以外の誰かのものだなんて発想が、そもそもありえないじゃないですか。
だから、あーもう少し眠っていたい、って、なんとなくその腕に顔をすり寄せちゃったのよ。
その瞬間、息を呑んだ。
「……っ!?」
わたしが触れた途端、その腕がわたしの意志とは関係なくグイッて動いて、わたしを掻き抱くように引き寄せたから、仰天して覚醒した。
(なに!? どういうこと!?)
首と腰に腕をガッチリと回され、拘束されている。
よく見れば、その腕は自分の腕よりもずっと筋張って逞しい。
背後に大きくて温かい身体と、ゆったりとした呼吸音。
(え!? だ、抱き締められてる!? 男、の人、だよね!? だ、誰!?)
しかも、背中に感じるのは、明らかに直の人の素肌。
感触からいけば、これ、上半身だけじゃなくて、下も絶対全部脱いでるよね!?
ゴクリと唾を飲んで、そろりと手を動かして確認すれば、わたしも丸裸。
(ちょっとぉおおお!? わたし、なにやらかしちゃったの!?)
わたし(達?)が寝ているのは、わたしのじゃない、明らかにスプリングの良いベッド。
同じベッドに眠る男女が抱き合っていて、しかも互いに一糸纏わぬ姿となれば、それはもうイコールと同義だ。
つまり、英語で言う『one night stand』……一夜限りの関係というやつだ。
(ああ、どうしよう……!)
頭が混乱する。
一夜限りの関係だなんて――不器用で、頑固だとさえ言われてしまうようなわたしに、そんな真似できっこないはずなのに。
なんだってこんなことに。
ややもすれば、グルグルととりとめなく疑問だけが巡りそうな脳ミソを叱咤して、わたしは懸命に記憶を辿った。
昨日……昨夜はどうしてたんだっけ?
確か昨日は金曜日で、半年に一回集まってる、同期の飲み会があって、出席したんだ。
そこそこ大きいウチの会社は、いわゆる中堅企業と呼ばれる所で、部署は異なっても、同期の数はそれなりにいる。そして年月を経ていく内に疎遠になりがちなその関係は、わたし達の代ではちょっと違っていた。
世話焼きというか、カリスマ性があるというか、皆を纏め上げる中心となる人物がいたために、なんやかやと半年に一度のぺースで同期会が行われているため、非常に仲がいいのだ。
わたしもその飲み会を毎回楽しみにしていた。
しかも今回、一つの大きなプロジェクトを終えた後だったので、自分への慰労を含めて、お酒が呑めるのを楽しみにしていたのだ。
(それだけじゃないくせに……)
ふ、と自嘲気味にノリツッコミを入れてしまう。
そう。それはむしろ、口実というか。
本当は――と思いかけて、ふわりと鼻腔をくすぐったシトラスノートに、身体が硬直する。
わたしは、ガン、と後頭部を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
(……嘘……!)
嘘だ。お願いだから嘘だって言って。
喉元に恐怖にも似た哀しみが押し寄せてきた。
だって、このシトラスノートは……、沢渡の、沢渡亮(さわたり たすく)の、香水の匂いだったから。
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