愛を乞う
私の想い

翌朝。
酷い頭痛で目が覚めた。
「いたたた。アッタマ痛い。」
飲みすぎたことを思い出した。
ふと見ると寝ている所は見慣れないベット。
確か、アパートも藤城様に与えられた部屋でもお布団だったはず。
よく見ると藤城様の部屋であることがわかった。
なんで、藤城様のお部屋に?
と雪の頭にはハテナが飛ぶ。
昨夜のことはほとんど覚えていない。
フワフワと幸せな気分だけが残っている。
なーんかいい夢見てた気がする。
部屋には誰もいない。雪は自分の部屋に戻ったが、奈緒はいなかった。
奈緒は?もう起きたのかな?
そんなことを思いながら、着替えて、さ、お仕事!と気を引き締める。
台所には昨日の食器が山盛り。それらを手際よく片付けながら、朝ご飯の準備をした。

皆さん、すでに起きていて、おはようございます。と声をかける。
「あれ?雪さん、変わらないね?」
と不思議そうに聞かれる。
「はい?まあ、頭は痛みますけど、変わらないですよ?」
と答える。
「昨夜、なにもなかったの?」
と聞かれたから
「何がですか?変わったことと言えば、起きたら何故か藤城様のお部屋だったことくらいでしょうか?酔い潰れた私を介抱してくださったのでしょう?」
「う、うん。まあ、そうだね。」
と苦笑いしている。
変なの。と思っていると赤い顔した奈緒が来た。
「おはよう。奈緒、どうしたの?泣いたの?にしても、顔も目も赤いよ?」
「ううん。なんでもないの。大丈夫よ。手伝うね。」
「おはよう。今日も可愛いね。2人とも。」
と加納様が入って来た。
なぜか奈緒がビクッとしていたが、
「おはようございます。朝からお世辞ですか?」
と笑う。
「お世辞じゃないよ?悪いんだけど、喉が渇いてるから、お茶貰える?」
「あ、はい。加納様も昨日は飲み過ぎましたか?私、飲み過ぎて昨日の記憶がなくて。」と笑いながらお茶を入れる。
「記憶がないの?…。ふーん。可哀想に。」
とチラリと奈緒を見る。奈緒は赤い顔で下を向いている。
「可哀想?ですか?あッ。楽しかったのは覚えてます!昨日はありがとうございました!歓迎していただけて嬉しいです。これからも頑張りますね。」
「うん。色々とよろしくね?」
藤城様はダイニングでゆったりと新聞をみている。
智仁が
「昨夜のこと、覚えてないんだってさ。残念だね。」と冷やかす。
「随分酔っていたからな。にしても、覚えてないとはな。はあ。」
「おまえは?」
「僕の方は上々だよ?」
「そうか。にしても素早いな。」
「そりゃあ、あんなに可愛いんだもの。誰かにとられる前に自分のものにしとかなきゃ。心配だものね。お前も急げよ?」と笑う。
「ああ。」
と短く答える翔悟。
そんな会話は聞こえず甲斐甲斐しく食事の世話をする雪と奈緒。

その日から、出掛ける際には私と奈緒、それぞれに藤城様の配下の方が付いて来るようになった。私は元々買い物くらいしか外出しなかったので、買い物がたくさんになるだろうからと誰かが付いてきて、荷物持ちをしてくれていたが、奈緒には?なんでだろう?と不思議だった。
奈緒はアルバイトをしているから、毎日のように出掛ける。そして、出る時から、帰りまで、まるで、護衛のように1人付いて回る。
奈緒に聞くと
「さあ?聞いても答えてくれなくて。多分、智仁さんが付けてるんだと思うけど。」
と言う。
「と、智仁さん!?」
とびっくりすると、
「あっ!」としまったという顔。そして、顔を赤らめる。
「加納様と何かあったの?」
と聞くと、
「えーと。ねえ。えーと。そ、そういうことなの!」
と赤い顔がさらに赤くなる。
そういうことってどういうこと?
えー!まさか!つ、付き合ってるってこと?
ポカンとすると、
「ごめんね?でも、幸せなの。」
とふんわり笑う。その顔を見るとああ、本当に幸せなんだなと思った。
「なんで謝るの?奈緒が幸せなら、私も嬉しいよ?おめでとう、」
と抱き合った。

その日から、私達の部屋に奈緒は帰ってこなくなった。私に伝えて、心置きなくラブラブできると思ったのだろう。
奈緒の行き先はもちろん、藤城様と対になってるコの字の反対側の加納様のお部屋。

はあー。奈緒が加納様とね。
確かに加納様は王子様の様な雰囲気で優しい。幸せになれるといいなと思った。

私はというと、気になっているのは藤城様。
だけど、加納様と違って私を睨んでくる。
優しいところはあるんだろうけど、あまり、見せてはくれない。
いやいや、私には恋愛とか、無理だから!
どうせ、好かれやしないし。
出るのは、ため息ばかり。
「どうした?何かあったのか?」
と台所で野菜を切っていると藤城様の声。
振り向くと両手でシンクに手をつき、私を囲う。
その目は獲物を捕らえるような目で、熱い。
「いえ。あの、なんでもありません。」
まさか、貴方のことを考えていましたとも言えず、俯く。
顔が近い。息がかかる距離に藤城様の顔。
恥ずかしくなって顔が赤くなる。
「そうか?なにかあるなら、俺にちゃんと言えよ?」と抱きしめられた。
いきなり抱きしめられ、びっくりして、ドキドキする。鼓動が速い。死にそう。
「だ、大丈夫ですから!」
と腕を突っぱねる。
藤城様は寂しそうな顔をして、手を離した。
台所で1人になって、
ダメダメ。どうせ好きにはなってくれないんだから、好きになっても、自分が傷つくだけだよ?今までもそうだったでしょ?また、痛い目にあいたいの?と自分に言い聞かせる。

廊下を歩いていると、いきなり腕を掴まれ、空いている部屋に引き込まれた。
「きゃっ!」
そのまま抱きしめられた。ふ、藤城様?
「お前、昨夜のこと、何も覚えてないんだって?」
「は、はい…。申し訳ありません。飲み過ぎてしまいました。あの、昨夜は介抱してくれたんですよね?ありがとうございました。」
「ああ…。介抱というか、寝せた…。」
「あの、腕…。」
「嫌なのか?」と藤城様は顔を歪ませる。
「嫌というか、困るというか…。あの、お仕事中ですので…。あの。」
と私の顔が赤いのがわかる。
「なんだ。仕事中だから、嫌なのか?だったら、仕事が終わったら、俺の部屋に来い!いいな?」と言って、ホッペにチュっとする。
「ひゃっ!え!えーと、起きてる時は全部仕事中です!では!」
と逃げる様に腕から離れ、台所に逃げ込む。
「はあー。なんだったの?あれは。困る。」
胸のドキドキはしばらく止まらなかった。
も、もしかして、藤城様も私を?いやいや、そんなね…。まさか…。

その日、ちょっとした、事件が。
奈緒のアルバイト先で、奈緒はコンビニでアルバイトしている。
私はそこのコンビニのアイスが好きで買い物に出た時はたまに寄ってアイスを買っている。この時もいて、奈緒のアルバイトが終わるのを待っていた。
「姉ちゃん、可愛いな。この後、俺達と遊ぼう?携帯教えてよ!」
そのお客さん達は男の人で、数人でニヤニヤしながら、奈緒の腕を掴んで離さない。
奈緒は
「あの、困ります!離してください!」
と拒否ったら
「なんだよ!折角遊んでやろうってのに!いいから、教えろ!」と店の中で喚く。
その男の人達は人相が悪く、チンピラみたいだったので、お店の人も遠巻きで、誰も助けてはくれなかった。
私はつかつかと近寄り、
「嫌がってるでしょ!離しなさい!」と男の人の手を掴んだ。
「なんだ!お前は!お?なんだ、お前も綺麗だな。お前が付き合ってくれるなら、いいぜ?」とさらにニヤニヤ。その時、男の人の奈緒を掴んでいる腕をギリっと掴み
「お前!どこのもんだ!嫌がってるだろう!」
怒鳴り声。奈緒に付いていた護衛の方。横には私の荷物を持ってくれてる方。黒スーツに身を包み、鋭い目で睨まれて、絡んでた人は
「どこのもん?え!あ!すみませんでした!」と逃げる。
明らかにどこの組のもんだと聞かれ、その人がヤクザもんだと察して男達は逃げたのだ。
護衛は帰宅後、加納様と藤城様に報告すると、お二人とも怒って、
「明日から、アルバイトは行かなくていい!」と奈緒に告げた。
「でも。お仕事がないと困ってしまう。」
と奈緒が言うと
「働く必要はないよ?」と加納様。
「働かなきゃ食べていけないし。」
ここに住んでいるから、食べるのには困らないんだけど、自立することができないという意味で奈緒は言う。しかも、奈緒は仕事もせずにここにいることが心苦しいようで、家賃を入れるつもりだった。
アルバイトできないと、家賃は入れられない。
しゅんとする奈緒に
「だったら、うちで雪さんと一緒に働く?」
という提案した。奈緒は少し悩んで
「外にアルバイト行けないんなら、そうします。」
と私と一緒に家政婦をすることになった。
奈緒と一緒に働けることに私は喜んだ。
藤城様は
「お前。危ないだろう?女1人で数人の男に立ち向かって!護衛がいるんだから、任せろ!」
と私に言う。その雰囲気は怖く、すごく怒っているのがわかる。
「でも!奈緒が困っていたし!ほっとけないでしょ!あのままだと何されるかわからなかったし!考えるよりも動いちゃってたから、仕方ないと思います!」
と藤城様に言い返す。
「お前な…。お前だって危ないんだぞ?」
「私はそんなことにはならないから大丈夫です!」
「なんでそんなこと、言い切れる!」
「だって!私は奈緒みたいに可愛くないし。男の人達だって、私にはそんな気は起こらないと思います!」
それを聞いた藤城様がさらに怒った様子で
私を抱き上げる。
「きゃっ!藤城様?どこ行くんですか?」
「…。」
藤城様は無言で自室のベッドに私を放った。
私は
「いたた。もう!何するんですか!」
と藤城様を睨む。
「あの男達がお前にしようとしてたことだ。」
と言ってスーツの上を脱ぎ、ギシッと音を立てて私に近づいてくる。
「お前は自覚が足らない。奈緒みたいに可愛くないだと?とんでもない!お前は可愛くて、そして、綺麗だ。」
率直に言ってくる藤城様にびっくりして
「お世辞はいらないです!私は可愛くもましてや綺麗でもありません!今までもそうやって奈緒を守ってきました!」
「お世辞じゃない!お前、何度も同じようなこと、今までもあったのか?」
「はい。奈緒は可愛いですから。奈緒は私が守らなきゃ!」
藤城様はため息をついて、
「今からはその役目は智仁だ!お前じゃない!」
その言葉が突き刺さる。私の役目じゃない?
じゃあ、私はもういらないの?と涙が出る。
「何故泣く?」
と藤城様。
「だって!奈緒を守る役目がないと私はどうやって生きていったらいいか、わかんない…。」
と声をあげて泣く。
「役目が欲しいならあるぞ?」
「えっ?」
「俺に愛されることだ。」
と藤城様の唇が私のそれと重なる。
「んっ!んんぅ!…あ。」
歯列を割って藤城様の舌が私の舌を捉える。
逃げる私の舌を執拗に追いかけ、強引に絡ませた。
私は息ができなくなり、胸をポカポカと叩く。
唇が離れ、
「お前は黙って俺に愛されてろ!嫌なのか?」
「嫌というか…。藤城様はなんで…。」
「お前に惚れてるからに決まってるだろう?」
と甘く囁く。
「嫌じゃないなら、いいな?この間の続きだ。」
「この間?」
「お前が酔い潰れた時だ。あの時もこうやってお前に口づけた。お前は忘れていたがな。」
えっ!びっくりしたが、その後言われたことだけ思い出した。
(シラフの時は覚えておけ!)
そんなことを言われたような?
はっとした表情がわかったのだろう。
藤城様はニヤッと笑って
「思い出したのか?」
「あわわわ。いえ!覚えてません!」
「ほぉ?覚えてない?どちらでもいいさ。同じだ!」
と首筋に唇を這わせた。
いやいやと首を左右に振って逃れようとするが、いかんせん体格差がありすぎる。
藤城様の唇はさらに下に下がり、胸をはだけながら、口づけする。
さらに下に行こうといた時、あまりの恥ずかしさに私は意識を飛ばした。




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