愛を乞う
お仕事はもちろん、家事全般。掃除に食事の支度などなど。
もうすぐお昼ということで、お昼ご飯を作ることになった。
なんとこのお宅には総勢12人がいるという。
藤城様と加納様、あとは「うちの若いの」が10人だそう。
食べられないものはないと言うことで、買い出しの時間もなかったため、冷蔵庫にあるもので作る。
こういうことは得意だ。なにせ、うちは貧乏だから、あり合わせで作ることには慣れている。
とはいえ、冷蔵庫を見るとぎっしりと詰まっていて、逆に何を作るか迷ってしまうほど。
ご飯とお味噌汁、お漬物と豚の生姜焼き。あとは刻み昆布の煮物など、お手軽なものばかりになった。
でも、皆さん、喜んで食べてくれた。嬉しい。
改めて、勢揃いすると圧巻!
藤城様と加納様はラフなチノパンに綿のシャツなどだが、他の方々は黒のスーツに身を包んでいた。
怖そうな雰囲気の皆さんだったが、口々に美味しかったと言っていただいた。
藤城様が人参だけを避けていることに気づいて
「藤城様、人参、お嫌いですか?残されるのでしょうか?」
と伺う。
「悪いか?」
と不機嫌そうに言うので、
「そうですね。始めにお聞きした時は食べられないものはないと伺いました。始めに言っていただければよかったです。
食べ物を残すのは良くないことです。農家の方に失礼ですし、世の中には食べたくても食べられない方も見えます。
なので、お嫌いだとしてもこれだけは食べていただきたいです!以降は出しませんので。」
と言うと皆さん、ざわっとした。
「おい!なんてことを!社長に…。」
と言われて、しまった!初日にやらかした!と思った。
だけど、藤城様は「俺に意見するとは大した度胸だ!確かに始めに言ってなかったしな。仕方ない。」と言って人参を食べてくれた!
苦い顔をしながら。
嫌いなのに、食べてくれたことに嬉しく思い、「ありがとうございます!他にもあるなら、教えてくださいね。」と言ってお辞儀をした。
後片付けをしていると、加納様がいらして、
「さっきは面白いものを見せてもらったよ。あいつが反抗もせずに、嫌いな物を食べたんだからね。」とくくっと笑う。
「あのー。失礼ではなかったでしょうか?私、つい…。」
と恐縮していると、
「大丈夫じゃない?食べたんだから。
あいつに意見するやつはいないから、逆に新鮮だったよ。」
と。
一応、セーフ?かな?
「あの、お聞きしたいことがあるんですが。」と恐る恐る。
「なに?」
「こちらはお急ぎで家政婦が必要と伺いましたが。」
「ああ、それね。そう、うちは男所帯なのに、今まで来てくれていた家政婦が急に辞めてしまってね。ご飯とか、困っていたんだ。家も汚くなる一方でさ。だからね、急いで依頼したんだよ。もう耐えられなくて。」
と教えてくれた。
「そうですか。では、やることはたくさんあるようですね。早速、お掃除しますね!」
と笑顔で言った。
加納様が、家を案内してくれた。
広いお屋敷だと思ったが、やっぱり広かった!
お部屋が20もある。コの字の形で、一番奥こ先端にそれぞれ藤城様と加納様のお部屋。玄関から続く長い長い廊下。
少し埃のあるお屋敷。
ざっと見て回り、私は全部を午後だけで終わらるのは難しいかなと思った。
主であるお二人のお部屋と応接室、食堂は今日中にやらないと!と思って丹念に掃除した。
残った時間で奥から順番に掃除をしていく。
奥に行くにつれ、この屋敷の重要人物の部屋になっていると思ったからだ。
掃除をしているとあっと言う間に就業時間が終わる。
就業時間は過ぎたが、晩御飯を作り、お暇した。
「ふー。疲れた。けど、充実していたな。明日も頑張ろう。」