愛を乞う
ドキドキ

それから、少しして。
藤城様が倒れた。
風邪のようだ。
熱が高い。仕事は終わる時間だったが、私はそのまま看病することにした。
帰れないことを奈緒に伝えなきゃ。
「あ、私、ごめんね。今日は帰れないの。うん。ごめん。寂しいよね。でも、お仕事なの。帰ったらいっぱい甘えて?」
と携帯で電話をする。
キッチンで電話していたのだが、
「誰に電話してる?」
と凄んだ顔の藤城様。ふらふらしている。
「どうしたんですか?喉が乾きましたか?」
と言うと
「誰に電話してるかと聞いている!」
「あ、あの、一緒に住んでいる…」
「もういい!寂しいなら、帰れ!おまえの仕事は終わっている!」
と部屋に帰る藤城様。
いやいや、帰る訳にはいかない。
だって、弱っている人を見捨てるようなこと。出来ない!
私は額のタオルを変えたり、汗を拭いたりした。
藤城様は寝苦しいように寝ている。
いつの間にか、私も寝ていたらしい。
大きな手で頭を撫でられている。
ん?誰の手?まさか!藤城様?
ドキドキが始まる。目を開けると寸前に手が離れた。
「藤城さ、翔悟さん。起きられたのですか?具合はいかがです?」
「帰れと言ったのに。愛しい彼氏が待っているんだろ?」
え!彼氏?私は目をパチクリする。
「彼氏じゃないですよ?一緒に住んでいる妹みたいな子です。」
藤城様は目を見開いて、びっくりしたように「妹?俺はてっきり…。」と言って黙った。
「そんなことより、お体、どうですか?」
「ああ、おまえのおかげでだいぶいい。」
と答え、爽やかな今まで見たこともないですよ笑顔で答える。
ドキっとした。

「おまえ、住み込みしないか?」
突然藤城様に聞かれた。
「え!」
「いや、うちの若いのがおまえのメシを気に入ってて、朝も食べたいのだと。まあ、俺もだが。」
あ、ご飯ね。びっくりした。やっぱり、通いじゃあ、仕事が多くてまわっていないのかな?
住み込みが同棲的な響きに聞こえた気がしてときめいた。
え?ときめいた?なんで?
「いえ、私が住み込むと、一緒に住んでる子が1人になっちゃうので、無理なんです。その子、甘えたで、誰かいないと寂しがるんで。」
と言うと
「だったら、その子も一緒に住めばいいじゃないか。決まりだな。」
と勝手に決められた。
「え!いや、奈緒にも聞いて見なきゃ。っというか、そんな訳にはいきません。奈緒は家政婦じゃないんですよ?」
「別に家政婦が欲しい訳じゃない。おまえに住んで欲しいだけだ。その子が一緒じゃなきゃだめなら、その子も住めばいいと言っている。」
なんか、家政婦じゃない、私と住みたいと聞こえた。が、まさかね。と思い直す。
奈緒に聞いて、いいと言えば住み込みにすることになった。

会話にときめいたことは考えないことにした。

家に帰って、奈緒に聞いた。
「ねえ、奈緒。
私の職場の方が住み込みになって欲しいって言うの。」
「えっ?帰って来ないの??そんなの嫌だ。寂しいよ。」
「うん、だからね。奈緒がいるから無理って言ったの。でも、だったら、奈緒も一緒に住めばいいって…。」
「え!私も一緒に?でも…。」
「嫌だよね。そうだよね…。」
私は自覚してなかったけど、相当しょんぼりしてたらしい。それを見た奈緒は
「うーん。いいよ?雪がいいなら。」
と笑顔で答えた。
私はパァっと明るい表情で
「え!いいの?男の人がたくさんいて、いや、でも、皆さん優しいんだけれども。本当にいいの?」
と確認すると、
「いいよ?だって、雪、お仕事好きなんでしょう?お世話し足りないって顔に書いてあるよ?」って笑った。
「ありがとう!奈緒、大好き!」
と抱きついた。


藤城様に住み込みができると報告した。
「そうか。」
と頷いたあと、藤城様は獰猛な目で微笑んだ。
私はゾクッとして、ドキドキした。
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