愛を乞う
住み込み始めました

私と奈緒はとりあえずの荷物をまとめて、藤城様のお宅に伺った。
住み込みだが、帰るところがないと解雇されたり、仕事を辞めた時に困ると思い、アパートはそのままにした。

奈緒と玄関でご挨拶する。
「あの、これからよろしくお願いします。住み込みになりました。
隣は妹の様な子で、奈緒って言います。」
と藤城様と加納様に頭を下げた。
奈緒も一緒にお辞儀した。
「安藤奈緒と申します。よろしくお願いします。」
藤城様が獲物を狩るかのような目で奈緒と私を見る。
(奈緒を気に入った?奈緒は可愛いからな。)
とチクっとした。
加納様が同じ様な目で、奈緒を見ていたことには気づかなかった。

私達は藤城様の手前のお部屋があてがわれた。和室で落ち着く。
なんで藤城様のお部屋に一番近いとこなのかは不思議に思わなかった。
お世話する対象が近くにいた方が何かと便利なのだろうと思っていた。

「はあ、緊張した!2人とも凄いカッコいいね。びっくりしたよ。」
と奈緒。
「そうだね。2人並ぶと圧巻だよね。」
と返す。
荷物を解くのもそこそこに私は晩御飯の準備をする。奈緒も手伝ってくれると言う。
「人数が多いから、雪1人で大変だったでしょう?これからは私もできるだけ手伝うよ。」
「ありがとう!」
と微笑みあってご飯を作る。
いつもは私は皆さんが食べている時は台所で1人、残り物なんかを口に入れていた。
藤城様は
「みんなと一緒に食べればいい。」
と言って下さっていたが、いやいや、私、使用人ですよ?皆さんが食べている間もお茶やお酒を供したり、空いたお皿を下げたり、やることはたくさんあるし。
と御断りしていた。
この日は私達の歓迎の意味もあるから、同席せよとの藤城様のご命令。
世話は若いのがやるからと。
歓迎の意味があるなら、私達がいないとダメだろうと思い、了承し、ご一緒させていただいた。

大勢でワイワイと食べるご飯は自分で作ったとは言え美味しかった。
お酌をしたり、取り分けたりとしながら、
楽しく過ぎていく。私と奈緒はあまり強くないお酒も進められた。
歓迎だから、あまり、断っては失礼だろうとついつい飲み過ぎた。

やばいな。飲み過ぎた…。
フワフワとして、気分がいい。なんでもないことでも楽しくて仕方がなくてコロコロ笑っている。
奈緒も同じ。
奈緒が可愛いくて、人目も気にせず奈緒に抱きついたりして、キャーキャー言っていた。

「可愛いな」
と藤城様と加納様がつぶやきあっているのは知らなかった。
「しかし、いくら可愛いと言っても抱きつくのは許せん!」
と翔悟は
「ほら、立て!いつまでもじゃれあってるんじゃない!」
と雪を立たせた。
雪はいきなり立たせられて、ふらっとして、倒れそうになったが、翔悟の厚い胸板に抱きしめられていた。
「全く。ふらふらしやがって!立つこともできんのか!」と呆れ気味。
「もう休め!」
と言って雪の足は宙を舞う。
お姫様抱っこというやつだが、酔っ払っている雪は心地好さそうにケラケラ笑い、翔悟の首に抱きつく。
「酔っ払いめ!」
と自室に連れ込む。
残された奈緒は
「雪ちゃん、どこ行くの?」
と呂律が回らない様子で不安を隠せない。
加納はすかさず、
「奈緒ちゃんも休もうか。」と同じくお姫様抱っこでこちらも自室に連れ込む。
残された若いのはハハッと乾いた笑いで見送る。
お二人共、行動が素早い。
まあ、あんなに可愛いければ仕方ないでしょう。社長はゾッコンで、買い物も、雪さんに重い物を持たせるなとか、危ない目に合わないように見張れとか密かに指令を出していたくらいだしね。それにしても、雪さんのお友達の奈緒さんも可愛いらしく、加納さんは一目で惚れたらしいですね。とかいいながら。

翔悟の部屋
雪を自分のベットに下ろした。急に翔悟の腕が自分を離れたとこに雪は不安になったようで、縋る目で翔悟を見る。
「そんな目で見るな。」
と翔悟は言い、ベットの端に腰を下ろした。
ギシッとベットがなり、翔悟の唇が雪と重なる。
「んっ、ううっ?」
雪は何が起きているのかわからなかった。
藤城様とキスしてる?
厚い翔悟の胸をポカポカと叩いて抗議するが離れない。
抗議の声をあげようと口を開くと待ってましたとばかりに翔悟の舌が雪の口の中に進入し、蹂躙する。
(ふ、藤城さま?なに?これはなに?夢かな?そうだよね。自分なんかに藤城様がキスなんかする訳ないし。なんて都合のいい夢。夢なら幸せになってもいいかな)
とこれは自分が見ている都合のいい夢なのだと思った。
雪は翔悟の舌に翻弄されながら、素直にそれに答える。夢だと思っているから。
「んんっ、ん。あぅん。」
「可愛いな。」と翔悟は雪の唇を貪る。
雪は今まで、自分が好きになった人からは好かれず、好きでもない人からは好意を向けられることが多々あり、自分には幸せな恋愛はできないのだと思って、恋愛は諦めている。
そもそも、両親が自分に記憶がないほど小さい頃に事故で亡くなって、孤児院にいたから、奈緒以外の人から愛されることはないのだと思っていた。
雪は男の人とお付き合いした経験がない。
自分にはそんな運はないのだろうと感じていた。
学生時代も、自分が好きになった人が友達を好きだと聞くと、傷付きながらもキューピット役に励んだ。
自分は我慢することが身についていた。

ふっと翔悟の唇が離れた。
2人の間に光る唾液の筋。雪の口元には飲み込みきれなかった自分と翔悟の唾液が。
「はぁ、はあ。」
息継ぎがなかなかうまくできず肩で息をする。
翔悟は雪の口元を見て口を寄せ、溢れる唾液を舐めた。
「ひゃん。なに?」
「心配するな。酔っ払いにこれ以上はしない。きちんと起きてシラフの時には覚えておけ!今は眠れ。」
と頭を撫でる。
雪は急激な眠気に襲われ眠りについた。


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