先生。あなたはバカですか?【番外編SS集】〜君は今ここにいる〜

俺が顔を上げると、翠の真っ直ぐな瞳が俺を射抜いた。


「埋まるはずないじゃないですか。時間は進んでいくだけで、戻ることなんてできないんです」


「…ずいぶん現実的じゃん」


「そうですね。だけど……」



俺の頬に触れる翠の手は、さっきまで水を使っていたせいか冷たく、心地良い。



「これからの時間を、二人のものにすることはできます」



俺が目を見開くと、彼女の目が細められ、口もとが緩やかな弧を描いた。


ずいぶんと大人びた翠のその表情に、年甲斐もなく心臓が高鳴り始める。


「3年なんて、これから二人で過ごしていく時間に比べたら、ちっぽけなものだと思いませんか?

私は、離れていた3年に負けない“これからの時間”を先生と一緒に作っていきたいです」


これからの……時間……か。


あー……本当に。


こいつってやつは……。



衝動的に彼女の肩を引き寄せ、腕の中へと押し込めていた。


「本当にお前は……。俺を言いくるめるなんて、ずいぶんいい女になったもんだよな」


「先生っ。苦しい……」



俺は少し、幸せボケをしていたのかもしれない。
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