先生。あなたはバカですか?【番外編SS集】〜君は今ここにいる〜
震える手で目もとを覆い、俺はその場で打ちひしがれる事しかできなかった。
あんなにも誰かを想い苦しかったのは、後にも先にも、あの時だけ。
そして今も、俺の時間はあの日で止まったまま、動き出せないでいる。
*
「これで無事、実習期間は終了だな」
「はい。お世話になりました」
教育実習最後の授業を終え、数学科準備室に戻ってきた俺は、岩田先生がいれたコーヒーと森田先生が買ってきてくれたというケーキを前に、ソファーに腰を下ろした。
「まぁ、今のお前なら教師になっても申し分ないだろ」
「……どうも」
気まずい…というかなんというか。
好きな子の好きな男が、目の前で足を組み、手元の資料を眺めながらコーヒーをすすってる。
しかも、この人は生田さんを好きだった自分を忘れてて、彼女が自分に想いを寄せていることも分かってない。
それどころか、恐らく生田さんは俺と付き合っていると思ってる。
どんなカオスな状況だよって話だ。
「…先生。今日、生田さんには会いました?」
「いや。今頃森田に捕まってるんじゃないか?」
何食わぬ顔で、先生は一口コーヒーをすする。