綾さんの恋日和
「亜依〜、寝るんだったらカーテンぐらい閉めたら」
ママは私のほうに視線を投げたまま、後ろ手にカーテンを引く。

「……」

「でもいい身分よねぇ、ママはこれから仕事だって言うのにねぇ」
ママはベッドの端に腰を降ろし、私の脇腹辺りを突っつく。

「話しは何?」

「あのさっ、昼夜逆転の引きこもりで、毎日退屈そうだから、しばらく綾さんの手伝いに行って来なさい、まあ今日の今日じゃあ可哀想だから、明日からと言うことで、以上」

「ちょっ…ちょっと、どういうこと!?」

カルティエの腕時計にちらりと目を走らせて、続きは夜のお楽しみ、と笑いながらママは出て行った。

程なく、行って来ま〜す、の声が玄関から響き渡り、ドアの閉まる音、駆けて行くヒール音、の後、薄ら寒いような静寂が訪れた。

「ふざけんなよっ!!」
傍らにあったティッシュケースを、力任せに投げつけた。
パコンって情けない音がして、床に落ちた。ティッシュケースは、変形してすらいない。

私なんて所詮そんなもの。ティッシュの横にあったリモコンを投げて、窓ガラスとリモコンを木っ端微塵に出来るだけの根性は持ち合わせていない。

あ〜情けな…。



でも……、綾さんの手伝いって、子供の私に、一体全体何をしろって言うんだよ。家事なんてちっとも興味ないよ……。
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