溺甘スイートルーム~ホテル御曹司の独占愛~
いつものように休憩室で弁当を広げようとすると、チーフがやってきて私を呼ぶ。


「西條さん、悪いんだけど……あの客、また来てね」

「あのって、もしかして?」

「そう、佐藤(さとう)さま。西條さんが担当した部屋なんだ」


私たちハウスキーパーの間では有名な佐藤さま。
彼は仕事で時々アルカンシエルを使ってくれるのだけど……いわゆるクレーマーなのだ。


「なにかおっしゃってますか?」

「あぁ、バスタブに髪が落ちていたって」


そんなことはありえない。
髪の毛一本落とさないようにするのは、私たちにとって基本中の基本。
特にバスタブは白くて目立つから、チェックにチェックを重ねる。


「わかりました。謝罪してきます」

「西條さん」


すると大成さんが私とチーフの会話を聞き、声をかけてきた。


「なんでしょう」

「髪が落ちていないことは、ふたりできちんと確認したと思いますけど」

「はい。わかってます。でもお客さまがそうおっしゃるのですから……」


もちろん、犯人は私でも大成さんでもない。
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