溺甘スイートルーム~ホテル御曹司の独占愛~
「始めたのか?」

「えっ? あっ、それ!」


彼が手にしていたのは、私の楽譜だった。


「なんで隠すんだよ」


慌てて楽譜を取り返し背中に隠すと、呆れ声。


「なんでって……。大成さんと中野さんが必死に頑張っているのに、私だけ好きなことして……」


練習を再開して、幼い頃の楽しかった気持ちが鮮明に蘇り、いつの間にか真剣になっていた。
だけど、ふたりは仕事をしているのに、という罪悪感がどこかにあった。


「俺は幸せだけどな」

「幸せ?」


彼は微笑みながらうなずく。


「澪がまたピアノに触れられるようになったのは、俺にとっても喜ばしいことだ。澪の心が穏やかになると、俺も幸せを感じるんだよ」


たしかに、私も大成が微笑んでくれると幸せだ。それと同じかな?


「大成さん、ありがとう」


私が言うと、彼は私の腕を引き寄せる。


「これからは、幸せになるための努力しかしない。澪と一緒に、もっともっと幸せになるんだ」


そして私の頬を両手で包んだ彼は、優しいキスを落とした。
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