溺甘スイートルーム~ホテル御曹司の独占愛~
彼女はそれだけ言うと、私の手を引き、非常階段へと向かう。


「なに、どうしたの?」


顔が険しい百花にもう一度尋ねると、「彼氏とどうなってるの?」と聞かれた。


「どうって、今まで通り?」


ホント、どうしたんだろう。


「さっき……」


百花はそこまで言うと、黙り込みうつむいてしまう。
言いにくいことなの?


「百花」


私が促すと、彼女は顔を上げ口を開いた。


「さっきね、廊下で見たの」

「八坂さん?」


私が言うと、彼女はうなずく。
それがどうしたの?


「八坂さん、女の人と一緒だった。しかも、腕を組んで……」


百花は眉根を寄せる。


「腕……」

「八坂さんはにこりともしてなかったけど、女の人のほうはそりゃあもう弾けた笑顔で。八坂さんの顔を見上げてなんか話してた。なんていうか……とても仕事だとは思えなくて」


申し訳なさそうに言う百花の声は小さくなっていく。
そして私の頭は真っ白になっていた。
< 255 / 363 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop