溺甘スイートルーム~ホテル御曹司の独占愛~
そうだったんだ。まったく知らなかった。
でも、それがなんだというの?


「ピアノで勝負をつけない? 負けたほうが身を引くの」


なにを言い出すの?

だって私は、もうずっと昔にピアノはやめてしまったし、時々レッスンに通うようになったとはいえ、人前で披露できるほどの腕はない。

千代子さんは、自分が負けるはずがないと思っているから、こんなことを言い出したんだ。
私がピアノをやめたことも調べてあるのだろう。


「いえ、私はもうピアノは……」

「あら、試合放棄? 私はそれでもいいけど」


どうしたらいいの? 
千代子さんがもし今でもピアノを続けているのだとしたら、私に勝てる見込みはない。

彼女はあのパーティのとき恥をかいたので、私に仕返しがしたいのではないだろうか。

頭が真っ白になってしまった私を見て、彼女がクスッと笑っている。
するとそのとき、部屋のチャイムが鳴った。


「あら、誰かしら?」


千代子さんが対応するために離れてくれたので、やっと肺に空気が入ってくる。
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