溺甘スイートルーム~ホテル御曹司の独占愛~
婚約破棄をしたとき『すべてを捨てる』と言い放った彼は、アルカンシエルを去ることも覚悟の上だったに違いない。
しかし、彼と話していると、それがよい選択だとはどうしても思えない。


「私たちの上に立ってください。大成さんが、いいんです」


まだ昨日会ったばかりだけど、彼の仕事ぶりなんてわからないけど……私の直感がそんな言葉を口走らせる。
すると彼はふと表情を緩め、口元に笑みを浮かべた。


「澪は面白いヤツだな」

「なにが面白いんですか?」


私が首をひねっていると、彼はコーヒーを口にしてから口を開く。


「会ったばかりの俺を、信用してくれるのか?」

「だって、大成さん、私を騙したりしないでしょう?」


まだほんの一部かもしれないけど、弱い部分も隠すことなく正直に私にさらけ出した彼が、私に嘘をつくとは思えない。

そもそも人は都合の悪い部分や知られたくない弱点は話さないものだ。
だけど最初からそれを見せてくれた彼は、私に嘘をつくつもりはない気がするのだ。
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