なんでもない、小さなこと
好きなご飯。

好きな音楽。


見慣れた景色。

家族旅行の記念写真。

卒業アルバム。


ずっと使い続けている入浴剤。

買い換えたテレビ。


みんなで観た映画。

母が好きなドラマ。

父の書斎いっぱいの本。

姉のお下がりの服。

弟お勧めのイヤホン。


大事なものがたくさんありすぎて、全部はこの手に持ちきれないって分かってる。


きっと、きっと、一年なんてすぐだ。

あっという間だ。


……私の鼻が赤いのは、寒さからばかりでは、なくて。


でも、まだ一年あるから。

まだ先のことは、どうなるか分からないから。


全部は持ちきれないけど、今はただ、朝行ってきますを言って、講義を受けて、帰りに連絡をして、ただいまを言う――そういういつも通りのことをしよう。


大事なものを大事にしよう。


たくさんあって持ちきれなくても、思い出にすれば、いつだってどこだって、いくつでも抱えていける。
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