降りやまない雪は、君の心に似てる。
「ねえ、おじいちゃん」
ふいに、私は問いかけた。
「ん?なんだ?」
汗を拭きながら、おじいちゃんは斧を振り下ろすのをやめる。
こんなこと聞いちゃいけないのかもしれない。でも自分の中で解決できないことが多すぎて口にせずにはいられなかった。
「……お父さんのこと。お母さんとおばあちゃんの話はどっちが本当なの?」
お母さんはお父さんをいい人だって言う。でもおばあちゃんはお父さんを悪い人だって言う。
お母さんは必ずいつか一緒になれると信じているけれど、おばあちゃんはもう戻ってこないと、強い口調で断言する。
きっと子どもの私じゃ分からないことが大人の世界にはたくさんあるんだろう。だけど話してる内容も言っている言葉も理解できてしまうから、分からないふりをするのも疲れる。
「尚子はひとり娘だったから、小さい頃は習い事や勉強ばかりをさせて厳しく育てたんだ。だから遊ぶことも覚えないまま大人になった」
「………」
「それで出逢ったのが〝あの男〟だったんだ。遊びも自由も知っていた男に尚子は惹かれたんだろう。尚子は一度決めたことは曲げられない真面目な子だから」
おじいちゃんの話し方は穏やかだったけど、やっぱり許せない気持ちが顔に表れていた。
温厚なおじいちゃんやおばあちゃんが毛嫌いするなんて、よほどの理由がなければしないから、お母さんが捨てられたというのは事実なんだろう。
だけどお母さんは簡単には諦められなくて、信じたい気持ちが残っているのだ。
だから、自分が愛した人にそっくりな大樹を溺愛する。
ずっとモヤモヤしていたものがひとつに繋がった気がした。