降りやまない雪は、君の心に似てる。
そしてバスは俚斗が降りる【原野6線】に停車しようとしていた。
ここでは雪が降ると交通手段が限られてしまうため、バス停は細かく区間が区切られている。だから私が降りる美瑛駅前とこの場所は8つ離れていても時間にすればほんのわずかな距離。
私もお金を用意しておこうとお財布を確認すると小銭が210円しかない。……しまった。あと330円足りない。
「ねえ、このバスって五千円札両替できる?」
「んーたしか紙幣の両替は千円札のみだよ」
「………」
さて、どうしようか。
バス停に着いたら直接運転手さんに両替してもらう?それともダッシュでコンビニまで走るべき?
いや、どっちにしてもバスを停車させてしまうことになる。私の他にも乗客はいるし、家を出る前に確認すればよかった。
「小銭がないの?」
俚斗の問いかけに私はこくりと頷く。
「いくら?」
「330円……」
「じゃあ、これ使って」
俚斗はポケットから五百円玉を取り出して私の手のひらに乗せた。俚斗の指先から離れた硬貨はひんやりとしていて冷たい。
「……ありがとう。明日必ず返すから」
受け取った瞬間にバスは原野6線に停車して、俚斗が静かに立ち上がる。
「はは。うん。また明日も会う約束ができた」
俚斗は嬉しそうな顔をして「じゃあね」とバスを降りていった。