降りやまない雪は、君の心に似てる。
それからお風呂に入って布団に入ったのは22時。東京にいた時は夜更かしなんて当たり前だったけど、こっちに来てからは自然と眠気に襲われる。
だから考えてしまう〝あの日のこと〟
私は小学4年生までこの家で暮らしていた。お母さんはいわゆる未婚の母で、子どもを産んですぐに甘えるようにおばあちゃんを頼った。
父親の顔はもちろん知らない。ただお金にだらしがなくて、職も転々としていて、きっと付き合ってた人はお母さんの他にもいたと思う。
子どもができたと知って、父親は認知だけはすると結婚はしなかったけれど、話し合って決めた養育費もたったの2か月で振り込まれなくなって音信不通になったと聞いた。
だから父親が今どこでなにをしてるかなんて私は知らない。
おじいちゃんも口を開けば『あの男だけは許せない』と言っていた。もちろんおばあちゃんも同じ気持ちだったと思う。
自分勝手で、自己中で、最低な人。
それなのにお母さんはいつまでも父親のことを引きずっていた。なにがそんなに良かったのかは分からない。
でも、いつか定職について生活が落ち着けば自分のところに戻ってきてくれるんじゃないかって思ってた。
みんな呆れていた。
だからダメな男に騙されるんだとおじいちゃんに怒られて、早くあんな人は忘れなさいとおばあちゃんに叱られても、それでもお母さんは父親のことを愛していた。
その愛情が私に向けられたことはない。
いや、あったかもしれないけど、苦しい思い出で上書きされた記憶はその小さな愛情さえも塗りつぶしてしまった。
お母さんは今なにをしてるだろう。
離れている私のことを少しでも考えてくれてるだろうか。
身勝手さは父親譲り。諦めの悪さは母親譲り。
本当にいいところなんて、ひとつもない。