降りやまない雪は、君の心に似てる。
「イヤだわ。そんなに動揺しなくてもいいじゃないの」
ニコニコとしているおばあちゃんを横目に、私は膝に溢れたお雑煮の汁を布巾(ふきん)で拭いた。
「……動揺なんてしてないよ、べつに」
そう、これは動揺じゃなくてビックリしただけ。
まさかおばあちゃんがそんなことを聞いてくるなんて思っていなかったし、こういう話に免疫がないから過敏に反応してしまっただけのこと。
「小枝は美人だから、男の子が放っておかないでしょう?」
「放っておかれてるよ。愛想がないって」
私は冷静さを取り戻しながら、お雑煮の汁をひと口飲んだ。
「あら、そうなの?まあ、誰にでも愛想を振りまくよりはそっちのほうがいいかもね。好きな子にしか見せちゃダメな顔ってあるのよ。とくに女の子はね」
「……おばあちゃんはおじいちゃんと恋愛結婚?」
「ふふ、そうよ。大学生の時にね――」
おばあちゃんがまるで少女のような顔をして、おじいちゃんとの馴れ初めを話してくれたから、私も恋愛話は苦手なはずなのに聞き入ってしまった。
好きな人にしか見せちゃダメな顔……か。
そんなの今の私には全然わからないけど、何故か『好きな人』と聞かれたとき、俚斗の顔が頭に浮かんだ。
考えてみれば男の子とふたりきりで話す機会なんて東京ではなかったし、〝小枝〟と異性の人から下の名前で呼ばれたのも俚斗がはじめて。
男友達がいない私にとって、今は俚斗が一番身近な男の子だから、自然と好きな人という言葉の先に繋ぎ合わせてしまったんだと、自分に言い聞かせていた。