約束の大空 3 ※ 約束の大空1&2の続編。第四幕~(本編全話 完結)




「こんにちは」

バスを降りて早々に花桜の家に到着すると、
チャイムを鳴らして、声をかける。

「まぁまぁ、瑠花さん。
 どうぞ、お入りになってくださいね」

すぐに、お祖母さまが迎え入れてくださる。


お辞儀をして家へと上がらせてもらうと、
お祖父さまも、道場の方から顔をのぞかせた。


「おぉ、瑠花さん。
 お帰り、ばあさん、お茶を入れてくれるかい」

「はいっ、ただいま」


そんなお二人に帰り道に買ってきた、
「みたらし団子」をお土産として手渡す。


「まぁ、美味しそうなお団子ね」

「学校の近くのお気に入りの和菓子屋さんで買ったお団子なんです。
 お二人にも召し上がっていただきたいのですが、総司もお団子が大好きなので……」

「えぇ。わかってますよ。
 後で、お茶と一緒に持っていきますね。瑠花さん」

「有難うございます。
 今日の総司の様子は?」

「あの子は、今日も鏡の前から動きませんよ。
 
 私たちにとっては、あの鏡はご先祖様と孫と私たちを繋ぐ宝物です。
 ただ時代を映すという役割を担う、その鏡が伝える映像は、
 決して私たちが望む時間のものだけを移すわけではありません。

 鏡越しに、ご先祖様が切腹に望まれる、その瞬間の顔まで映し出されてました。
 それを隊士のはしくれとして、その場で見届けた花桜のことを思うと、胸が張り裂けそうでした。

 それでも……私たちにとっては、その鏡は、刀と共に家宝です。

 でも……あの子にとっては、これから鏡が映し出すかも知れない映像は、
 どんな武器にも勝る凶器となりうるのでしょうね」


そう言って口にした、お祖母さまの言葉は、私の中にも深く突き刺さる。


「えっと、山崎さん……は?」

「彼に関しては現在、記憶喪失からの身元不明者として、
 無戸籍者としての住民票を交付され、生活保護を受けて治療が受けられるように
 手続きをしている。

 彼の体の傷は順調に回復しているものの、名前や自分の生い立ちなどの一切の記憶は今も
 戻っていないようだ」

「山崎さんはこの後、どうなるのですか?」

「このまま記憶が戻らない状況が続くと折を見て、家庭裁判所に、就籍許可申し立ての手続きを
 仮名をつけてすることになるだろうね。

 本来ならすぐにこの手続きが出来れば良かったのだが、記憶喪失と言う手前、順を追って手続を踏まなければならない。
 誰も、幕末に生きた山崎丞だと言っても、信じるわけがないからな。

 花桜の為にも、山崎君の為に今の現在で出来ることはしてやるつもりだ。
 孫が愛した存在……。

 彼が退院したら、彼もこの家で暫く生活させようと思っておる。
 その辺りの話し合いも、必要になってくるがな……。

 ただ今は、瑠花さんには敬里の心を支えてもらわねばならんな。
 世話をかける」



お祖父さんはそう言って、私が知らなかった間に進んでいた、山崎さんの現状も教えてくれた。
改めて、花桜のお祖父さまの存在の大きさを感じずにはいられない。 


そしてそれは何処となく、幕末に生きた山南さんの空気にも似て……何故か懐かしくなった。
 


お二人の前から離れると総司のいる、鏡の部屋へと向かう。



「ただいま。総司」


襖に手をかけてゆっくりと開くと、
暗闇の中で、鏡を一心に見つめ続ける総司の姿が視界に入る。



「もう、総司。電気くらいつけなさいよ。
 視力が下がっちゃうんだから」

っと極力、明るい口調で話しかけながら、総司の隣へと腰をおろした。



鏡が映し出しているのは、川下りをする隊士たちの舟。
そしてその舟には、幕末に生きる敬里と舞たちが映し出されている。



「舞たちは無事?」

「加賀も、ぼくとして生きる彼も、斎藤君も無事に目的の場所へと向かっているよ。

 ねぇ、瑠花。
 僕があの場所に居たら……何か出来ることがあったと思うかい?」



突然、総司は小さく呟いた。



多分……あの場所と言うのは、近藤さんが捕まった流山のことかな?っと推測しながら、
総司にゆっくりと視線を向ける。
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