約束の大空 3 ※ 約束の大空1&2の続編。第四幕~(本編全話 完結)
99.宇都宮に向かうために -舞-
会津での生活がはじまった私たち。
負傷している隊士たちは会津藩の計らいもあり、
治療に専念し動けるようになった隊士たちは、来るべき戦に備えて準備を始めていた。
敬里の体調は、相変わらずすっきりしない。
時折、咳き込んでいる様子をたびたび見かけるものの、
私が近づくと、笑顔で「どうした?」なんて切り返す。
「ねぇ、敬里。
アンタ、そんな咳き込んで血とか吐いてないでしょうね」
まさか……とは思いながら、沖田総司としてこの世界にタイムワープしてしまった敬里だから、
そんなことも危惧してしまう。
「血?
んなもん、吐いてねぇょ。
沖田総司じゃあるまいし。
舞は心配しすぎなんだよ。
ただ風邪がすっきりしねぇだけだよ。
この薬の世界は不味いし、あっちみたいに快適に過ごせないからなー。
っと、お前ら、良くこんな世界で数年間も生きてきたよな。
あぁ、せめてこの喉のイガイガが少し落ち着きゃー、気分も楽になるんだろうけどな」
なんて敬里は言いながら、部屋から外へ視線を向けた。
敬里が視線を向けた先には、西洋銃の取り扱い方を訓練している風景が視界にうつる。
なんでも女性でありながら、銃に明るい人もいるらしく、
この地に居る女の人たちは、凄く輝いて視界にうつる。
「ねぇ、私も西洋銃、学習してみようかな?」
「はっ?
んなもん、舞がやんなくてもいいだろうよ。
やるなら……俺だろ。それは?」
そう言いながら、敬里は自分の掌をじっと見つめ続ける。
「ずっと、こんな世界、偽りだったらいいって思ってた。
だけど……、夢じゃなくて、こっちが今の現実なんだな。
斬った、撃ったが日常茶飯事。
毎日、誰かの血が流れて、毎日、誰かが負傷して……。
俺が今生きてるのも、この体の中に赤い血が流れつづけてるのも、
奇跡に近い出来事なんだなって思ったら……、向こうで俺がどれだけ流されて生きていたかを
思い知らされた。
って、なんかドン暗くなっちまった。
まぁ、舞のことは俺がサポートしてやるって言ってんだ。
お前は、お前がやりたいように斎藤さんと走り続けろって」
「んっ、もうっ。
アンタ、いっつもそればかりなんだから」
憎まれ口っぽく言わないと、敬里の優しさに泣いてしまいそうだから、
私はあえて突っぱねるように声を紡ぐ。