約束の大空 3 ※ 約束の大空1&2の続編。第四幕~(本編全話 完結)


座敷牢での投獄生活は、近藤さんの姿を変えてしまっていた。

足枷をはめられて、牢に幽閉されている近藤さんは無精髭が伸び、
その表情からも疲れの色は感じられるものの、
ただ静かに残された時間を過ごしているようだった。


時折、幼い子供が座敷牢をたずねてきては、
門番が牢の鍵をあけて、女の子は牢の中に何事もないように入っていって
近藤さんの膝の上にチョコンと座る。


すると近藤さんは幼子に向かって柔らかな笑みを浮かべる。


その子供が近藤さんが幽閉されていた橋宿平尾脇本陣豊田家の孫娘なのかも知れないと思ったのは、
その映像を見た夜に調べて知ることになる。



「近藤さん……」


時折、絞り出すように小さな声で近藤さんの名を紡ぐ総司。


「ねぇ、総司。
 近藤さん、凄く柔らかい表情を見せるんだね。

 あの女の子のおかげかな?」

「つねさんとの間の、
 たまちゃんを思いだしてるのかも知れないね」

「つねさんって、近藤さんの正妻の?」

「松井つねさん。
 近藤さんの奥方だよ」


そんな話をしてる間にも鏡は、近藤さんの様子を映し出す。

お白洲らしい場所にムシロを敷かれた上に、
連れ出されては尋問されているらしい近藤さん。

日が落ちるとまた座敷牢へと連れ戻されて、
座敷牢の中には子供が遊びに来る。

そんな日の繰り返しを何日も何日も過ごした後、
とうとう鏡は運命のその日を映し出した。

 
切り倒した竹を立ててぐるりと囲むように作られた広場。

鏡が映し出した映像に、近藤さんの処刑を強行するために官軍が急ピッチで作り上げた場所が
板橋刑場と名付けられた場所だと知った、その日の旅行が脳裏に浮かぶ。



もう見たくない。
総司にも見せたくない。


そんな感情が私の中に沸き上がる。


目を背けたい。
背けて欲しい。


強くなりたいと思った。
だけど……私もまだまだ弱いんなぁって、今一度自覚した時間。



映像は続く。



座敷牢から移された近藤さんは両手を後ろにくくられ、
縄に繋がれてゆっくりと最期の場所へと歩みを進めていく。


無精髭は、さっぱりと剃られ、真っ白な着物を身に纏ったまま、
ゆっくりとその場所へ向かう。

そして刀の切っ先を鏡が映し出した後、
数秒の後、鏡の中は真っ暗になった。




総司は私の隣で、
正座を崩さないまま静かに肩を震わせて泣いていた。



そんな総司の傍で、私もただ静かに鏡を見つめ続けていた。




これから、もっともっと情勢は厳しくなる。


花桜、舞、そして敬里。
皆も、どうか無事で。


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