約束の大空 3 ※ 約束の大空1&2の続編。第四幕~(本編全話 完結)


「土方さん、山波です。
 斎藤さんと行動を共にしていた舞が参りました」

「入れ」


中から声が聞こえると、ゆっくりと襖に手をかけて開く。
相変わらず土方さんは机に広げた地図を見つめていたようだった。


「加賀舞入ります」

舞が入った後ろ、
敬里はただ静かについてはいってお辞儀をした。


「今日は土方さんに大切なものをお渡ししたく参りました。

 斎藤さんと行動を共にして居る最中、
 近藤さんの訃報が斎藤さんの元に届きました。

 そして京に近藤さんの首がさらされると言う知らせが届いたとき、
 斎藤さんは自ら京へ出掛けようとなさいました。

 その大切なお役目を私と、こちらに控える敬里が代行させていただきました」


そう言うと舞は懐の中から大切そうに、
布袋を掴んで土方さんの前へと差し出す。



差し出された巾着に視線を向ける土方さん。


「それは?」

「近藤さんの遺髪でございます。

 斎藤さんの命を受けて私たちが三条河原についた時、
 すでに近藤さんはその場所にはいませんでした。

 今日でお会いした、近藤さんの従兄弟と名乗る金太郎さんと共に、
 その後も行方と手がかりを探しました。

 斎藤さんよりお預かりした文を誓願寺のご住職に見て頂いたとき、
 近藤さんがこちらに埋葬されたことを知りました。

 埋葬場所は住職さまの胸の内で、私たちが知ることはありませんでしたが、
 その時に、住職が切り分けてくださっていた遺髪を頂いてまいりました」



舞はそう言って再び巾着に手をかけて、
土方さんの方へと向けた。



「……そうか……。
 加賀、遠路ご苦労。

 今日は、ゆっくりとしてくれ。
 山波、宿の女将を」


土方さんに言われるままに女将さんを呼ぶと、
舞と敬里がこの旅館で休めるようにと取り計らってくれた。

二人が女将さんに連れられて部屋を出ていった後も、
私は傍に控える。


「……かっちゃん……」


絞り出すように微かな声で、
近藤さんの名前を呟いた土方さんは、
「朝まで一人にしてくれ」と私に告げて、
巾着から取り出した遺髪に触れながら肩を震わせていた。


私は静かにお辞儀をして、土方さんの部屋を離れると、
久しぶりに、舞や敬里と三人で楽しい時間を過ごした。


翌朝、土方さんの部屋へと向かうと、
いつもと変わらない素振りで、土方さんはそこに存在していた。

そして朝餉の後、友をつけることを拒んで、
何処かへと一人で出掛けて行った。

戻ってきた後、私たちは容保公が許してくださったその場所に、
近藤さんの遺髪を静かに埋葬した。


それは土方さんにとって、また一つの区切りとなったようで、
前線復帰に向けて本格的に動き始めるきっかけとなった。


今も尚、前線での小競り合いは続き、
白河奪還作戦は敗北を繰り返しながら続いていた。

< 161 / 246 >

この作品をシェア

pagetop