約束の大空 3 ※ 約束の大空1&2の続編。第四幕~(本編全話 完結)

「こんな時でもじゃない。
 こんな時だからこそ、なんだよ。

 さっ、私も手伝えることやって訓練に後で顔を出すよ。
 敬里は?」

「俺は慣れてないから最初から訓練に顔出すかなー。
 やることもないしなー。

 ついでに、花桜の様子でも見てくるわ」

そう言って、敬里も私の前から何処かへ移動していった。

私はと言えば負傷兵の傷の手当を少し手伝った後、
炊事場へと顔を出した。

炊事場に広がるのは、味噌の香り。
ふと鍋の中に視線を向けると、沢山の『きのこ雑炊』が作られていた。

その隣の釜では炊き立ての玄米ご飯。

そして、その隣ではこの時代では珍しいけど、懐かしい形のものが作られていた。


「あの……、それは?」


焼きあがったばかりのぺったんこのものに視線を向けながら、
問いかける。


「あぁ、これビスケットっと言うものだ。
 非常に長く保存がきくのでな、今の戦時には重宝するであろう。

 金沢を訪ねた際に教えられたという人がいてな。
 今、ここで何とか形に出来ればと思考しているところだ」


目の前にあるのは、ビスケットと言われればビスケットなんだけど、
真っ黒に焦げて、ふっくらとしたサクっとするような食感はなさげな代物。


「これが……西洋の保存食かい?
 硬くて食べられたもんじゃないだろう」


そう言って、炊事場の人たちは出来上がったばかりの、真っ黒な物体に手を伸ばして
口に運びながら顔をしかめる。


「一つ、頂いていいですか?」


断りを経て手を伸ばし、一口、口の中に入れるものの、
そのビスケットは硬くて、歯が弱い人だったら食べることすらままならない代物で。


「これなら、昔ながらズイキ【さつまいもの弦を味噌汁で煮て干したもの】の方が
 うまいだろう」

なんて、そんな話へと派生していく。


視線の先には、小麦粉と思われるものが置かれている。

ビスケットの作り方なんて、正直わかんないけど、
何となく材料は分かる。


そう思って、小麦粉と砂糖と塩を混ぜて、水で溶いて練り上げていく。

その中に、胡麻をさらに追加して混ぜていくと、
釜土の日の中へと、小さく切り分けたものを乗せた鉄板を投入させる。


オーブンなんてないから、どれくらい焼いていいかもわからなくて
手探りばかりだけど、炭になるまで焼かなければ大丈夫なはず。

途中で何度か様子を見ながら30分ほど焼いた後、
私はそれを引き出した。

何となく、ビスケットっぽく見える物体。

手を伸ばして食べると、先ほどまでの硬くて歯も通らなかったものとは違って、
私が知るビスケットっぽいものにはなったけど、やっぱりまだ何処か違った。

炊事場でビスケット作りを頑張ってた人たちも、
次々と手を伸ばして味見をするが、先ほどまでの硬さがないと言うことは、
水分が多くて、保存食には向かないんじゃないか……などなど、
様々に意見が飛び交い、ビスケット開発はまだまだ続くようだった。


炊事場での手伝いもとりあえず一段落したのを見届けて、
私は訓練現場へと姿を出した。
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