約束の大空 3 ※ 約束の大空1&2の続編。第四幕~(本編全話 完結)
そんな花桜の背中を見送る。
……花桜、どうかご無事で……。
『また生きて会おうね』
交わす言葉の重みがずっしりと私の心にのしかかる。
そんな私たちの会話を黙って見守っていた敬里が、
「舞、少しいいか」っと、
人気が少ない静かな場所へと私を誘導した。
「ずっと、こんな暮らししてたんだな」
敬里は、噛みしめるように、吐き出すように、
絞り出すように……重苦しい口調で言葉を切り出した。
「舞……お前と一緒に京まで旅した時、
俺が話したこと覚えてるか?」
敬里が私に話したこと……。
☆
山波の道場で一緒に練習してた頃に比べて、
今のお前は、何かに悩んでるのが伝わってくる。
何かに苦しんでるのが伝わってくる。
聞いちゃ、ダメか?
お前が苦しんでるモノ、俺が少しでも受け取りたいって言ったら嫌か?
☆
確か……そんなことを言ってくれてたのは、
覚えてる。
嬉しかったから……。
だけど、その優しさに甘えちゃいけないって思ったから
私はわざと気が付かない素振りをする。
「何?
敬里、なんか話してた?」
「なんだよ、忘れてんのかよ。
なら、ちゃんと覚えるまで何度も言ってやるよ。
お前が山波の道場で一緒に練習してた頃に比べて、
何かに苦しんでるのが伝わってる。
お前が隠そうとしてても、只漏れなんだよ。
だからお前が苦しんでるモノ、抱えてるモノ、
俺にわけろって言ってんだよ」
そう言って、敬里は今度は目をそらそうとする私の顔を両手で
まっすぐに挟んで、目をそらすことを許してくれない。
「あっ、悪い。
でも、お前……また目を背けようとする。
こうでもしないと、お前はまた俺をはぐらかして、
何もしゃべろうとしないだろ。
俺、自分が許せねぇんだよ。
あのインターハイの日、帰宅したら、花桜が居なかった。
だけど……、あの頃の俺は、花桜に家宝の相続で負けて
イライラしてた。
だから花桜が帰って来ないんだったら、それでいい。
居なくなったら俺が家宝を相続出来る。
それくらいにしか思ってなかった。
だけど……、じいちゃんとばあちゃんが騒々しくなって、
部屋に引きこもるようになった。
おじさんとおばさんは、口を噤んだままあまり会話しなくなった。
家の雰囲気があの日を境に一気に変わったんだ。
だから、ばーちゃんの部屋に忍び込んだ。
そしてあの鏡を見つけた。
あの鏡の中には、花桜や舞、それに瑠花ってアイツの親友が映ってて……
幕末って言う、俺には信じられないような時間を必死に生きてた。
そんな頃、俺も夜中に夢を見るようになったんだ。
沖田総司の夢を……」
そう言って敬里は、私が知らない敬里の時間を語りだした。
沖田さんの記憶を夢で見るようになった敬里は、
幕末に来ることになって、沖田総司として生きることになった瞬間、
その夢の運命を受け入れたのだと言う。
だから……どんな運命でも受け入れる。
私の荷物を受け詰めてやるから話せっと、
まっすぐな優しさで、ぐちゃぐちゃに真っ黒な感情で押しつぶされそうな私に
光を差し込ませてくれる救いの手。