約束の大空 3 ※ 約束の大空1&2の続編。第四幕~(本編全話 完結)
この世界に来て、私も義兄を見送って、晋兄を見送って……そして今、
敬里を見送った。
だとげそれと同じように、花桜も…山波さん、山崎さん、敬里と大切な人を見送ってきてる。
同じように大切な人を失う経験をしながら、
常に前を向いて、悲しみを隠すように走り続ける花桜。
そんな花桜の強さが眩しく感じる時もあったけど、
今のこの吐き出された感情を知って、そんなの私が勝手に思ってただけだって知った。
花桜は今もずっと、皆の「死」を背負って、バトンを繋ぎながら必死死にもがき続けてるんだ
って。
「あぁ、なんかうるさかったよね。
長い独り言。湯呑のお白湯も空っぽになっちゃったし、私、向こうの様子覗いてくるね。
なんか土方さん容保公と、あと一人誰だったかな。
なんか名前言ってたけど忘れちゃった。桑名藩の偉い人みたいなんだけど、その人たちと軍議に出てるんだよね。
怪我人の様子を見て、また土方さんのことも気にかけなきゃ。
あの人、すぐに無茶するんだからさ」
そう言って花桜は私の隣から立ち上がると、
いつもの日常と言う名の戦場へと戻っていく。
やっぱり強いよ。
花桜は……。
そんなことを感じながら、冷えてしまった湯呑の中身をそっと口に含む。
コクリと飲み込んだ瞬間、喉が渇いてた私自身に気が付くことが出来た。
敬里の死は嘉賀舞ちゃんの記憶には、なかった出来事。
だけど……敬里の出生の秘密を知ったその時から、
こんな日が来ることは知ってた。
気づいてた。
私が抱えた罪も全て受け止めて私を守ると言い切った敬里。
敬里が真っすぐに私を愛してくれていたのは、
同じ高校に進学した時から気づいてたんだ。
気が付きながら、ずっと気づかないふりをしてた。
敬里は幼馴染。
惹かれる、気になる存在だけど、
それは恋ではない愛情なんだって。
それなのに……アイツは私を守って逝っちゃった。
もう……藤宮の校舎で制服姿のアイツを見ることも、
剣道部の部長として皆を引っ張っていたアイツの姿も、
教室で授業中に居眠りしてたアイツも、見る事が出来ないんだ……。
私たちにとっての当たり前の日常が、
この世界に来て、突然、終焉を迎えることを知りながら……
全てを受け入れて、私を守って旅立っていたそんなアイツ。
だけど……守ってくれて有難うなんて、
やっぱり言えないよ。
花桜じゃないけど、バカっ、大バカ者よ。
犠牲と自己満足の果てに守られても、全然嬉しくないんだから。
そう思ったら、今度はイライラしてきた。
怒りをぶつけるように私は握り拳を作って、
何も考えずにぶつけた。
バキっという音が響いて、
別の意味でパニックになる。
えっ?
慌てて音がした方へと視線を向けると、
薄い板が張り付けられただけの木の扉に、私が貫いた穴が開いてた。
えっ?
「加賀、こんなところに居たのか」
突如、現れた斎藤さんは目の前の穴と
私の今も握られたままの拳に視線を向けてクスクスと笑い始める。
「気が済んだか……」
そう言われた言葉に、慌てて拳を緩めて小さく頷いた。
「少しいいか?」
斎藤さんの言葉に「はい」と答える。