約束の大空 3 ※ 約束の大空1&2の続編。第四幕~(本編全話 完結)
「土方さん副長と山波隊士に、こちらをお店の上、加賀舞が到着したと
お伝えいただけませんか?」
っと取次ぎを願った。
その後も、すぐに中へといれて貰うことは出来ず、
門の外で待ち続ける事、30分ほど。
両手をこすり合わせながら、何度目かの息を手に吹きかけた時、
門が内側からゆっくりと開かれる。
「舞っ!!」
中から飛び出してきたのは、懐かしい花桜。
「花桜っ!!」
思わず抱きあう二人。
そんな私たちを見守っていたらしい、
鬼の副長さんは、呆れたように「早く入れ」っと声を漏らした。
土方さんの声に反応するように、
「舞、体が冷えすぎだよ。
ほらっ、早く中へ入って」っと私を建物の中へと招き入れる。
二人が入ったのと同時に、再び門がゆっくりと閉ざされた。
和式の建物なのに西洋風のカーペットやソファ-、シャンデリアなどが
飾られた室内に彩られた空間をまっすぐに歩き続けると、
そこには今の花桜たちのお仲間さんたちが何人も姿をみせていた。
そこには、ワインらしき赤い飲み物がグラスに注がれて、
色鮮やかなドレスを身に纏ったご婦人と語りあう紳士の姿があった。
「舞、あちらが総帥の榎本武揚さん。
ほらっ、昔、学校の教科書でチラっと名前くらいは憶えてない?」
そんな風に、花桜は私に耳打ちしてくる。
花桜は団らんしている人々の中を、
あの人は誰だよっと説明しながら通り抜けると、
とある部屋へと入室する。
「舞、この場所が私の部屋。
舞は私と一緒の部屋でいいかな?
ちなみに隣は、土方さんの部屋だから何かと安心だよ」
なんて笑いながら告げる。
とりあえず、暖炉の火で温まらないと。
濡れてる服とかも乾かさないといけないし、
私の着替えを使って。
花桜に言われるままに私は着替えを済ませ、
濡れた服を棒につるすように干す、
花桜が何処からともなく温かい飲み物を運んできてくれた。
花桜が用意してくれた飲み物が、
ホットワインだと言うことがわかる。
「花桜、お酒じゃん。これっ」
「だって寒いんだもの。
体温めるには、未成年でも多少は許してもらわないと」
そう言って花桜もホットワインを口元に運んだ。
「山波」
隣の部屋から土方さんの声が聞こえる。
「はいっ。
まだ舞の支度中です」
「あぁ、ゆっくりでいい。
落ち着いたら、二人で来てくれ」
「はいっ。
後、15分くらいお時間ください」
そんな会話を当たり前のように繰り広げる花桜。
土方さんの雰囲気も、
私が知ってる頃とも舞ちゃんの記憶の中の頃よりも、
随分と違ってきてる気がする。
前はこんなに気軽に話し合えるような雰囲気がなかったから。
そんな二人を目撃すると、ちょっと安堵する私がいる。
約束通り15分ほど経った後、私は花桜と二人、
土方さんの部屋へと向かった。
「土方さん、山波です」
新選組に居た頃と同じように、声をかける花桜。
すると内側から「入れ」と了承する声が聞こえる。
花桜が手をかけて開いた扉の向こう。
絨毯が敷かれた上に、西洋風の机と椅子こそ存在したが、
それ以外は殺風景な作りの部屋だった。
そんな部屋の中央には無造作にテーブルが一つ置かれていて、
その上には、この周辺の地形のようなものが描かれた紙が広げられていて、
その紙面上に、小さな小石や細木を折ったものが並べられていた。
「加賀、会津はどうなった?
斎藤は?」
「会津は一ヶ月の籠城の後、降伏。
斎藤さんを含めた会津の人たちは、鶴ヶ崎城明け渡しの時、
新政府軍へと連行されました」
「そうかっ」
土方さんは短く現実を受け止めるかのように小さく返事した。
「土方さん、斎藤さんは大丈夫です。
ちゃんと生き残って、警察官になってたから」
「警察官?」
「あぁ、京に居た時と同じですよ。
治安を守るために働いている人たちのことです」
少し重くなりそうな空気の中、
花桜は明るい声で告げる。
えっ、花桜……未来の歴史を告げることに
あんなに戸惑ってたのに。
花桜の変化に驚きながらも土方さんがその次の瞬間、
嬉しそうに微笑んだ姿を見て、
花桜が確信犯でそれを告げていることが伝わった。
花桜の中でも、
箱館まで来たことで土方さんの最期が近いことを感覚で受け止めているから。
だからこそ、
気にせずに語ることが出来るのだと感じた。