約束の大空 3 ※ 約束の大空1&2の続編。第四幕~(本編全話 完結)
溢れ出した涙を何度か掌でこすって涙を鎮めると、
ゆっくりとベッドから立ち上がって鞄の中から木箱を取り出した。
そして再び、総司の眠るベッドサイドに腰かける。
木箱をくくる紐を解いてゆっくりとふたを開けると、
総司の眠り続ける掛布団の傍に静かに置く。
そのまま木箱に入った布を手紙ごと引き出すと、
ゆっくりと膝の上に置いた。
「総司……、これは花桜の家にずっと受け継がれてきた手紙なんだって。
お祖父さまとお祖母さまに借りて来たんだ。
一人で読むのは怖いから一緒に聞いてくれる?」
そう言って総司に話しかけると色褪せた手をゆっくりと開いた。
★
記憶の中の大切な友へ
今、この手紙を読んでくれているのは、
誰なのでしょうか?
今は名前すら薄れてしまった、
記憶の中の大切なアナタ。
アナタと過ごした時間が、
私にとって、かけがえのない宝物です。
舞ちゃんの悲しみから続く連鎖を断ち切りたくて、
龍神様に祈り続けた日々。
そしてその願いが聞き届けられた時から繋がった縁。
その中で得た、かけがえのない宝物に、
私は今は心を満たされて過ごしています。
舞ちゃんと斎藤さんの血を受け継ぐ、
幼子が受け入れた先の未来。
愛しいものを抱きしめて、
今の私は心穏やかに過ごせています。
せめてもの想いを託したくて、
山南さんの一族を訪ねて、この文を託しました。
記憶の中の大切な友へ。
貴方は今、幸せにお過ごしですか?
舞
★
舞?
古びた手紙に記されたのは、
確かに舞の名前で……、その舞は
確かに加賀舞として存在していたはずの名で。
遠い、この世界から秘め続けられた舞の覚悟を想う。
舞、貴方が一人で背負う必要なんて何処にもないの。
遠い未来で、私も背負い続けるから。
貴方が繋げてくれた縁を忘れないように、
私のこの場所で一生懸命歩き続けるから。
古びた手紙は大切な友が記した、
彼女が生きた証。
私は再び、木箱へとその手紙を片づけて、
木箱越しに舞を想いながら抱きしめた。
舞が守ってくれてる。
だから……総司も総司として、
私の傍に帰ってきてくれる。
何故かそんな風に思えた瞬間だった。