約束の大空 3 ※ 約束の大空1&2の続編。第四幕~(本編全話 完結)
「花桜。
今、敬里にきいた……」
小さく花桜に話しけるものの、花桜は顔を上げることもなく膝を抱えたまま俯いていた。
「山崎さんは?」
そう問いかけると、花桜は「あっち」とほとんど聞こえないような小さな声で呟いた。
花桜が告げた方向へと視線を向けると、新選組の隊士たちが中心となって何かの準備を始めてた。
確か……和歌山沖で、水葬されるんだっけ?
瑠花ほどじゃないけど、うる覚えの記憶を辿る。
「集まってくれ。
今日までに亡くなった仲間たちの弔いを始める」
土方さんの声の後、動ける隊士たちは動けないものに手を貸しながら、
一斉に甲板の方へと移動を始めた。
ぐるぐると布に巻かれた遺体と思われるものを、板にくくりつけて並べられている。
肩を負傷している近藤さんも、その場には立ち会っていて、その隣には敬里が沖田総司として寄り添っていた。
私も花桜を抱えるように支えて、甲板へと出る。
花桜の目は、今も虚ろのままで、現実をまだ受け止めきれてないみたいだった。
近藤さんの挨拶から始まって、厳かに行われる早々の儀式。
命を落とした隊士の名前と感謝の言葉が紡がれていく。
だけどさっきまでお天気だった空が、今は曇りを帯びてきてやがて波が高くなり始める。
隊士たちの悲しみの呼応するかのように、
その姿を変え始める空と海。
そしてお別れの時。
板にくくりつけた隊士たちを船から海へと弔う際に、
今までうつ向いたまま固まっていた花桜が、山崎さんの傍へと走りだした。
慌てて花桜の後を追いかけて、その腕を掴み取ろうとするものの、
私の手は後僅かで届かない。
「丞っ!!」
花桜まで一緒に落ちちゃったかもっと目を閉じた瞬間、
「山波、何やってるの?
そんなことして山崎君が喜ぶと思ってる?」っとあの人を連想するように、
敬里の声が聞こえる。
その声にホッとしたのも束の間、突然、空が割れて雷鳴が轟いた。
「皆、天気が荒れ始めた。
全員、船室へと戻れ」
土方さんの声に、再び参列していた隊士たちは船室へと移動を始めた。
花桜は敬里がそのまま船室へと連れていく。
私はそのまま中すぐに入る気にならず、海面をじっと見つめていた。
さっきの雷鳴……。
水葬の最中、もしかしたらあっちの世界へと消えたのかもしれない。