約束の大空 3 ※ 約束の大空1&2の続編。第四幕~(本編全話 完結)
「加賀、こんなところにいたのか?」
その声の主に気が付いて、私はゆっくりと後ろに振り返った。
「その傷……斎藤さんも」
「大げさなんだ、ここの奴らは」
そう言って、溜息を吐き出して私のほうへと近づいてきた。
「加賀は何をしていた?」
「あぁ、制服ズタボロだなぁーって」
斎藤さんに言われて私は慌てて、おどける様に返答する。
「制服?」
「そう。制服。この着物の中で身に着けてる洋服のことね。
この服は、学校。学び舎に勉強に行くための指定の服なの。
私にとっては大切な服なんだけど、戦いで、ぐちゃぐちゃになっちゃった……」
ぐちゃぐちゃになっちゃった……。
そこまで言葉を吐き出すと、ずっとどこか別の世界のような気がしていた感覚が、
リアルな現実へと重なって、私の体は無意識に震えだした。
やばいっ。
震えるな体。
震えるな私。
知ってたじゃない?
私の中にいる、もう一人の舞が巻き込んだ今回のタイムワープ。
瑠花は向こうの世界へと帰せた。
後は、花桜を向こうの世界へと帰せることが出来たら……。
その為には、私は立ち止まってなんていられないし、
もう一人の舞の罪を、ちゃんと償わないといけない。
そんな風に思ってるのに、こんなところで泣いてる場合じゃないのに。
どれだけ自分に言い聞かせようとしても、その震えが自分自身でとまることはなかった。
そんな私を震えが少しずつとまったのは、ふわっと抱きしめられる温もりを感じた時。
「斎藤さん」
私がその名を呼ぶと同時に、もう一人の舞が『一(はじめ)さん』っとその名をつぶやく声が響いた。
「少しは加賀自身を許してやれ」
斎藤さんは優しく紡ぐ。
たった、それだけの言葉に今の私がどれだけ癒されるか、
この人は知ってるのだろうか?
もう一人の舞の心があるから、
私はこの人にこんなにも惹かれるのだろうか?
ただ……一つだけ言えるのは、どんな時でも、
私が壁にぶつかっているときは、あらわれて手を貸してくれていた。
それだけは変わらない。
私を後ろから抱きとめる腕を指先で辿って、
手当された真っ白な包帯を包み込むように柔らかく両手で触れる。
「この傷は大切な宝物を守った証なんですよね……。
斎藤さんは、この先の辿る未来を知っている?
って、私……何言ってるんだろう。
知ってるはずなんてないのに……」
「加賀、この先の未来……俺自身にどんな運命(さだめ)が広がっていようと、
俺は俺の誠を貫き続ける。
その思いは何一つ変わることはない。
ただ……その片隅で、加賀一人抱えるくらいはしてやる。
お前が抱えるものも、辛くなったら預けろ。
一人で泣くな」
そうやって優しい言葉をかけられると、
自分の罪を忘れて、何も知らなかった時のように、涙が溢れ続ける。
止めることなく溢れ続けた涙と共に、
私は、その腕の中で眠り落ちてしまったみたいだった。